チューリップラジオ18

いつのまにか深夜の0時を回っていて、私は帰ることにした。
「たまみちゃんありがとね〜。ふふふ。今日はよく眠れそう。」
ほろ酔いのせい子さんを背後に感じながら玄関へ向かう。しかし、脱衣所に一瞬目をやったとき、それが、終わりの始まりだった。見たことのある柄シャツ。誰の服だろうか。それは1人しかいない。ストライプデニムの杉田だっま。追求すべきか。一度見ないふりをするべきか。私は振り返ってせい子さんの顔をみた。
「どうしたの〜たまちゃん。ねえ。これからもよろしくね。」
彼女はそう言った。今まで見たことがないくらい柔らかい表情をしていた。そして乱れた髪の毛がフワフワしていて、お腹を見せる猫のように、無防備だった。


私は笑った。どういう種類の笑いなのかわからない。せい子さんは本当に、何も言わなかった。ラジオの収録のあと、隠れて杉田と会っているのだろう。2人で口裏を合わせて、別々にラジオ局をあとにして、また会って。私を除け者にして、ハラハラして、それは楽しかっただろう。さっき冷蔵庫にあったケーキも、どうせ杉田が買ってきたものだ。他にもたくさんの点が線になる。可笑しくなった。
「かなわないな」
私は笑い声に混じらせながらそう言っていた。せい子さんはドアが閉じるまでずっと幸せそうな顔をしていた。


タレントとマネージャー。あくまでそういう関係だった。しかし私はいつのまにか私生活まで首を突っ込んでいた。いや、せい子さんの寂しさが垣間見えたとき、突っ込まずにはいられなかった。なんとかして私が、そう思って頑張って、ご飯を作ったり、ただ遊んだりした。とにかくわからないながらに頑張ってきたけど、1番大切なことから私は目を背けてた。

「憧れの存在」は最初からいなかったんだ。


私が寄り添おうと近づくたびに、せい子さんを突き放していたのと同じだ。私の憧れの存在であり続けるためにせい子さんは声を押し殺して泣いていた。さっき見た杉田さんの柄シャツを思い出す。隠されていたことに腹が立ったのに、不思議とせい子さんを責めることが出来なくて、可笑しくなって笑ってしまった。かなわないのはただせい子さんの強さだった。りょうや、杉田にすがるほどの寂しさを持ちながら、私の前ではずっと「憧れの存在」でいてくれた。私はどうすればいい。せい子さんという人間にどう近づけばいいかわからなかった。

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