チューリップラジオ17

春になった。せい子さんのマネージャーを務めてもう少しで1年だ。せい子さんの仕事はラジオを皮切りにどんどん増えて行った。東京でのモデルの仕事も始まって、りょうと同じように月の1週間は東京にいた。高い身長と長い髪の毛、小さい顔は見た人の記憶に強く残るらしい。「一度見たら忘れられない美女」と紹介されて、ついにテレビのVTR出演も受けた。


事務所へ打ち合わせに行くと、吉井が私に言った。
「いいニュースと悪いニュースどっちから聞きたい?」
私は笑ってしまった。
「じゃあ、悪い方で」
吉井はそうこなくちゃと言わんばかりの顔をしながら言った。
「せい子のラジオが5月いっぱいで卒業になった。」
ストライプデニムの杉田ともやっと仲良くなったこともあって、せい子さんも寂しがるに違いない。確かに悪いニュースだった。
「もう一つ、せい子が受けてた戦隊モノのオーディションあっただろ。あれに合格したんだ。次の戦隊ヒーローのピンクはあの子だよ。」
私はびっくりして、目を見開いた。
「本当ですか。せい子さんが演技ですか。」
「あの子なら大丈夫だよ。もちろんモデルの仕事は少し減らせるように掛け合っておく。俺はな、実際、原さんのおかげだと思うよ。せい子が仕事を上手くこなせるようになったことも、こんなに意欲的にやってくれることも。」
吉井に褒められたことは初めてだったように思う。素直に嬉しく、ただせい子さんに会いたくなった。


事務所での打ち合わせが終わり、せい子さんは休みだったが、ケーキを持って会いに行こうと思った。それとオーディション合格のことラジオのことを言うように吉井に言われたこともあった。私はせい子さんが好きだと言っていたケーキ屋を調べ買いに行った。小さい店構えは、本当に兄の店にそっくりだった。小さいガラスのショーケースにぎっしりと並べられたケーキは、可愛くて愛おしかった。その中でも季節限定と書かれた桜色のケーキに惹かれ、二つ買った。


せい子さんの家へ行った。急だったが、一人で映画を見ていたようで部屋が暗かった。ケーキを冷蔵庫に入れようと、扉を開けると同じ箱が入っていた。
「せい子さん、もしかしてまたケーキ被りしてますか?」
そう言うとせい子さんは笑っていた。
「それ、昨日買ってきたやつ。たまみちゃんの分1つだけ残してあるの。ほんと、いつもタイミング同じだね。」
しかも、せい子さんが買ってきてくれたケーキも桜色のケーキだった。コーヒーを淹れながら、私は吉井と同じ言い方をした。
「せい子さん、いいニュースと、悪いニュース。どっちが聞きたいですか。」
せい子さんは苦笑いをしながら言った。
「悪いニュースで。」
私はラジオのことを言った。せい子さんは全く驚かなかった。
「実は、そろそろだろうなと思ってた。杉田さんともそういう話はしてたから。」
そして次に、オーディションの話をした。
「せい子さん、ヒーローですよ。ピンクですよ。」
せい子さんは驚いたように口元を抑えた。
「たまみちゃん、ありがとう。本当にありがとう。私、頑張るね。だから桜色のケーキなの?嬉しい。ありがとう。」
せい子さんは何度も私にありがとうと言った。
「桜色のケーキはたまたまだよ。」
私たちは二人で笑いあった。せい子さんは少し涙目になるくらい笑っていた。私も頑張らなくてはいけないと、また強く思った。

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