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#文活
小説「ひかりとコアラといちまいごはん」
「あれ、乗ってきていい?」
ほぼひと月ぶりに会ったひかりは公園に着くと、小声でどこか遠慮がちにささやいた。私は一瞬言葉につまった後、いいよ、とうなずく。ひかりは軽く手を添えていた私のアルミ製の松葉杖から離れた。細い両脚を重そうに運び、向かったのは、パンダの乗り物だった。まるっこく、垂れ目の頭の上に取っ手がついていて、乗るとおなかの下から伸びているばねが前後に動く乗り物。
ひかりはこのパンダの乗
うつくしいことば、について
高校生の頃、現代文の先生になりたかった。
本当は何故かずっと道徳の先生に憧れていたのにどうやらそんな仕事は無さそうだったので、その次になりたかったのが現代文の先生だった。
古文は現代文ほど得意ではなかったから、国語の先生としてひとまとめにされるとちょっと一部範囲外なんだよなぁ、なんてなってもいないのに勝手に思ったりして。
センター試験本番ではラッキーなことにテスト問題との相性がすこぶる良くっ
小説「ふたりだけの家」1(全13話)
ここ、小児科だっけ。
受付を終え、身を乗せている車いすを回れ右させて病院の待合室を眺めた私は、一瞬本気でそう疑った。
待合室はほぼ満席だった。二歳から五歳くらいの小さな子どもや、まだ生後何か月、といった感じの赤ちゃんの姿が目立った。その子たちを連れてきている母親たちも、二十代半ばと思しき人たちばかりだ。受付すぐ目の前の席にも、女の子を膝に乗せた若い母親が順番を待っていた。女の子はしきりに手や
小説「ふたりだけの家」 まえがき
昨年、noteをはじめてまもなく、「川べりからふたりは」という作品を発表させていただきました。
孤独をみずからに強いて生きている車いすの青年、涼と、ある秘密を抱えた健常者の女性、奈美の物語です。全17話という長い作品でしたが、幸い多くの方々に読んでいただきました。それからもぽつぽつと読まれ続け、最近も一気読みしてくださり、感想文まで書いてくださった方もおられ、感謝の涙を流したものでした。
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