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【Destination】第49話 クロスカウンター
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黒雲から漏れていた陽の光が消え、辺りは薄暗くなり始めた。宴会開始までに残された時間は30分を切ってしまう。刻一刻と近づく死刑執行のとき。
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ユリの生命に危機が迫るなか、ルカは元世界チャンピオン「ナオキ」との戦いに挑むが、発作の影響で応戦するどころか拳をかわすこともできず、攻撃を受けるたび、激しく体力を奪われていく。
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今、彼女にあるのは「村とユリを救いたい。約束を果たしたい。ヒデキからうけた恩に報いたい」という思い。その強い思いがルカを奮い立たせ、感覚のなくなった足をつき動かす。
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半死半生となったルカに容赦なく襲いかかる元世界チャンピオンの拳。止むことのないナオキの猛攻に耐えながら、ルカはひたすら反撃するチャンスを待つ。
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「おいッ!こいつのどこがバケモノじみた強さなんだ?普通の女となにも変わらん。アマチュアボクサーのほうがまだマシだぞ」
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「そんなはずは……」
「あの女……、どうしやがった……。オレたちと戦ったときとはまるで別人。さっきの強さはなんだったんだ」
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ケイジの刀を素手で砕き、男6人を相手に勝利したのは数分前の出来事。理解しがたいルカの弱体化に部下の男は釈然とせず、不服そうな表情を浮かべる。
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「調子に乗りやがって、このクサレハゲが……」
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「大口たたいてケンカを売ってきた結果がこれか。ガッカリさせやがって」
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「ケイジどもを倒して、いい気になってたんだろうが、残念だったな」
「オレは世界を相手に戦ってきた本物の実力者!弱者の世界でイキがっているヤツらと一緒にされちゃ困るんだよ」
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「まぁ、これだけオレの拳をくらっても死ぬどころか気絶すらしていない。そのタフさだけは認めてやる。女のクセにいい根性をしている」
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「アタシが全力で拳を撃てるのは、あと一発が限度……。殴らせるだけ殴らせて、疲れてきたところをアゴにカウンターを入れる。それしか勝つ方法はない」
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「貴様が今なにを考えているのか知らんが、頭をつかって勝てるほど、オレは甘くはないッ!」
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「体格、経験、勝利への執念!すべてオレのほうが上!比べ物にならん!」
「生死を賭けた戦いに身を置き、勝利してきたオレとお前とでは格が違う!この実力差は小細工で埋められるもんじゃないんだよ」
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「さぁ、立ちな!そろそろ時間切れだ」
「続きはアジトに帰ってからにしようじゃねぇか。じっくりとなぶり殺しにしてやる。宴会の余興にちょうどいい」
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「ちょっと待て!アジトへ行く前に聞きたいことがある」
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「なんだ?」
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「お前が世界チャンピオンだったってのは本当なのか?」
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「なにが言いたい!」
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「女のアタシすら満足に倒せない、お前のどこが実力者なんだって聞いてんだよ?」
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「!!!!!!」
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「それと、世界チャンピオンってのは、いつの話だ?少なくても10年以上前だろ?」
「ボクサーは1ヶ月練習を休むと、それを取り戻すのに倍の時間がかかる。1年休めば、元の体に戻すのに1年以上。10年間なにもしなければ一般人と変わらなくなる」
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「お前は現役を退いてからの10年、強い敵と戦い続けたのか?まともなトレーニングなんか一度もしなかったんだろ?」
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「!!!!!!」
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「つまらない過去の栄光は忘れな!」
「老いぼれた今のお前に、人を殴り殺す力はない!こんな軽いパンチじゃ、アタシは倒せない」
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「いい加減にしろ!そのくらいにしとけ!!」
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「世界を獲ったってのも本当かどうか怪しい」
「どうせ強いヤツから逃げて、格下ばかり選んで相手にしてたんだろ?弱者の世界でイキがってるのはお前も同じ」
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「撤回しろ!今の言葉ッ!!」
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「イヤだね!」
「ムキになって否定するのは図星である証拠。自分のコンプレックスとなっているからこそ、触れられると過剰に反応してしまう」
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「これでハッキリしたよ。あんたが姑息で卑怯なチャンピオンだったってことがッ!」
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「もういい!貴様はこの場で殺すッ!!」
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「そう。殺れるもんならやってみなよ。体力も落ちてるだろうから、飛ばし過ぎると痛い目に合うかもよ」
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「痛い目を見るのは貴様のほうだッ!!」
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「バカが挑発に乗りやがった」
「これでいい!アジトには50人の輩がいる。この状態で連れて行かれたら相手にできない。なんとしても、1対1で……、この場でケリをつける」
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プライドを傷つけられ、怒りでわれを忘れたナオキはルカに突進。巨大からは考えられないスピードで距離を詰め、右ストレートを放つ。
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この攻撃を読んでいたルカは左腕でガード。
ガードは相手の攻撃を弾く、吸収する、攻撃の軌道を変えるなど、さまざまな用途があるが、最大の利点は、避ける動作よりもさらに小さい動きで攻撃を回避できる点。
これをうまく使用するには、フットワークをつかい、ガードしやすい位置に立つことが重要。
相手の攻撃に対する角度、受けるタイミングの調節が必須。この高度なテクニックをつかい、ルカはナオキの攻撃を完全に防ぐ。しかし。
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ナオキはさらにその先を読んでおり、右ストレートを止められた瞬間に態勢を変え、ルカの腹に強烈な左フックを入れた。
予想を上回る攻撃に、アバラを折られたルカは大きなダメージを負ってフラつき、上体のバランスを失って倒れかける。
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「ついに出した!利き手じゃない右ストレートをわざとガードさせ、すかさず得意の左高速フックで相手のドテッ腹を攻撃する、ナオキさんの必殺、トルネード・ロール」
「体の遠心力を利用した強力な拳。アレをまともにくらって、立ってられるヤツはいない」
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「勝負あったな!やっぱりナオキさんは強え!」
「技のキレと威力、軽い身のこなし。現役時代となにもかわっちゃいない。オレがガキのころに観てたそのままだ。体に染みついた戦い方は忘れちゃいない」
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「いけるッ!!」
「一発目はともかく、ボディへの一撃は威力がなかった!疲れがきてる」
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「殺るなら今しかない!」
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「こいつッ!攻撃をかわしやがっ……」
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