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おーい!落語の神様ツ 第二話
自宅から歩いて5分もかからない場所にある居酒屋『いつきや』の暖簾をくぐると、いつものように大将が「いらっしゃいっ」と愛想よく迎えてくれた。咲太は思わず大将の肉付きの良い肩を確認しながらカウンターに腰かけた。日曜日の夕方の早い時間、先客はいなかった。おかみさんがおしぼりとコップを持って来てくれ「いらっしゃいまし」と言ってすぐに瓶ビールを持って来てくれた。おかみさんの肩も確認してしまう。
「どうした
おーい!落語の神様ッ 第一話
紋付羽織袴姿の男が深夜の浅草を千鳥足で歩いている。この街の人達は気にもとめない。「どうせまたどっかのバカが飲み過ぎたんだろう」と見て見ぬふりをしてくれる。
どっかのバカの正体は、この秋二ツ目から真打に昇進が決まっている落語家の紅葉家咲太、三十四歳。落語の世界ではまだまだひよっこの若手だ。
「ちくしょう。死んでやる。死んでやるぞ」
咲太はガラスに映る自分に向かって、吐き捨てるように言った。
「
「値段なりの仕事をします」という言葉
私の妻は落語家(個人事業主)である。
毎年、妻が確定申告の為の書類整理をひーひー言いながらやっている。
わざと私の前でひーひー言っている気はするが、そんな姿を見せられては手伝わないわけにはいかないので、私は割と前のめりで手伝う。毎年のその共同作業がなかなか楽しいからだ。
昨年に比べてどういった種類の仕事が減っただとか増えただとか、コロナ禍前と後の違いだとか、二人で話しながら領収書や支払
【童話】ヤディとヤドン
ヤドカリのヤディ・カリィは引越しをする前に自分の家を誰かに渡そうとしていました。
「すみますか?」
「すみません」
「すみますか?」
「すみません」
あっちでもこっちでも、あやまるのと同時に断わられました。
ヤディ・カリィはなかなか自分の家を渡せませんでした。自分の家が他のヤドカリの家にならないと引越しが出来ないので困ってしまいました。
「すみますか?」
そんなある日。反対にヤディに
連続X小説 光と影 61〜73
この時K氏が、抱えた仕事を私達に振って旅行に行く図々しさを持っていたら、もしかするとまだライターを続け、大成していたかもしれない。だが実際は恋人に旅行の中止を伝え、泣きながら別れを告げられたのだった。編集部総出で穴を空けずに済んだが、彼は人生そのものを失ったようだった。
N氏の連載に登場する女性はとにかく不幸の宝庫だった。N氏の意向を汲んで、私が前もってマネージャーにリサーチしていたのもあ
連続X小説「光と影」㊶〜60
T氏は、私のいた会社の社長の後輩だった。社長の出版社勤務時代の話を沢山聞けたが、一貫していたのは「××さん(社長の名前)は昔からダセぇ」で、私達によく「君らの作る本はダセえ」と言っていた。ある時、好きな雑誌はスタジオボイスだと言ったらT氏は満足気に「そこから学べよ」と笑った。
T氏は口は悪かったがそれとは裏腹に文章は美文と評されていた。ノンフィクション本も何冊か出版していて、とてもプロフェッ