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武田敦
2024年2月24日 07:00
2024年2月7日 07:00
ついに、わたし達は街の上空に達した。エリザは、まるでわたしの意を介したかのように、小さな街の外郭を一周し、土埃の舞う中央の広場へと向かった。 今や、街の住人は、さっきまでとは逆に、広場へと雪崩を打っていた。デビルの背にわたしが乗っていることに気付き、そのデビルが、広場へと舞い降りようとしているのだ。皆驚愕に目を見開いて、口々に叫びながら上空のわたし達を指差している…… 「いてっ!」 わたし
2024年2月6日 07:00
徐々に近付いてくる鉱山街は、染みのような存在から、縮尺の小さな地図、そして建築模型へと成長し、わたしは、街の印象を心の中いっぱいに吸い込んだ……鉱山というより、フロンティアの開拓地にできた俄か作りの街……トタンの屋根に、土の壁、あるいは、ログハウス……錆びた機材が山積みになって…… 汚れ放題の身なりの住人たちが、蜘蛛の子を散らしたように走り回っている。 はじめ、それがわたしの登場がもたらした
2024年1月30日 07:00
『どちらも違うわね』 「?」 『トリックがあるの』 「トリック?」 『もし公園には彼らは入れない、となると、私達は、大挙してその地に移住することになるわ……もともといた部族と争いが起きるわね』 確かにそうだった。 『公園への彼らの立ち入りは、何の前触れもなく、突然解除されるの』 ……そういうことか……殺戮の為のおぞましいシステム…… 『それには何のパターンもなく、結局、長い目で見
2024年1月27日 07:00
『他のデビル達が、私の背中にいるあなたに気付いたみたい――』 彼女が言い終わるか終らぬ時、彼女の言葉を待っていたかのように、わたし達の頭上に影が差した。 ぎょっとして見上げると、エリザより一回りは大きい、毒々しい赤みを帯びた鱗のデビルが、カッと目を見開いてわたしのことを見下ろしていた……5標準メートルもない…… エリザとその巨大なデビル――わたしは、オスに違いないと思った――は、大空に同じ
2024年1月26日 07:00
いかに多くのデビルが舞っているとはいえ、広大な空間だ、他のデビルとの無用な衝突を避けるという意味もあるだろう、至近距離でほかのデビルとすれ違うような場面はほとんどない。 しばらくして、エリザが、広く開脚した足を少しすぼめた。途端に、空間の一点を目指して滑空のスピードが上がった―― (どうしたの!) 『ちょっとお腹がすいてるの!』 空間の遙か先に、何か黒い染みのような粒粒がもやもやしている
2024年1月23日 07:00
『その帽子、顎紐はある?』 「あっ!」 確かに、このままでは飛び立った瞬間に吹っ飛んでしまう。……それにしても、帽子の顎紐、何て概念まで把握できるなんて、デビルの知性には目を見張る…… 改めて帽子をかぶり直そうとして、わたしは、制帽のひさしの上に乗ったゴーグルに気付いた。まるで帽子の飾りの一部のようで、今まで気にも留めてなかったけど、これを使わない手はない。 顎紐をきつく締めた後しばしの
2024年1月21日 07:00
『あなたはしっかりこの毛につかまってればいい。後は、私が鱗でがっちりあなたを押さえてあげる』 わたしは、頷いた。……よく見ると、丁度デビルの幼獣が母親にしがみつくと思われる辺りの鱗は、前向きに開く鱗と後ろ向きに開く鱗が、交互になっていた……赤ちゃんがしがみついて飛ぶんであれば、何も危険はないように思われた。――デビル・ハンターの真似をする必要は、全くないのだ。 『……どう、決心付いた?』
2024年1月20日 07:00
わたしは、ごくりと唾を飲み込んだ。 『見て!』 エリザは、彼女の首筋の鱗を、バリバリ、バリバリと立てて見せた。 わたしは、あっ、と声をあげていた。 子供のデビルの鱗は指先ほどの大きさだったが、彼女の鱗は、改めて見ると優に30標準センチはある。立った鱗のしたには、毛のようなものが密生していた―― 『デビルは、思春期を迎える頃、子供のころあった鱗とは別に、大きな鱗が生えてくる……そして子供
2024年1月15日 07:00
わたしは、前を行くデビル達と湿りを帯びた洞窟の壁との間の狭い隙間を、デビル達の横っ腹にぶよっぶよっと手を突きながら駆け抜けた――一匹、二匹……四、五、六……八匹……九! パッとまぶしく周囲が開け、わたしは、断崖絶壁からせり出した岩棚の上に走り出ていた――危うく急ブレーキをかけ前のめりに立ち止ったわたしの全身を、夏とまではいかないが、明らかに初夏の風が吹き抜けた。強い風……。 わたしの眼前に、
2024年1月12日 07:00
しばしの沈黙の後、デビルが、その巨大な瞳をパチリと瞬きして見せた。 『あなたとは仲良くやれそう……お礼がしたい』 わたしは、思わず彼女の瞼の上をさすっていた。 『私と一緒に飛んでみたいと思ったことはない?』 「えっ!」 わたしは、驚いた。……そんな夢を見たことがある……。デビルは、人の心に入ってこれる……人間でも、そうそう勘のいい人はいないのに…… わたしは、この時ばかりは、離れ離れ