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『天使の翼』第12章~吟遊詩人デイテの冒険~

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サンス大公国の秘密警察機関SSIPのデビルハンター捜査に巻き込まれたデイテ、シャルル、ローラの一行は、指揮官クラレンス少佐の計らいでハイアンコーナまでパトロールエアカーに同乗させ…
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2024年1月の記事一覧

『天使の翼』第12章(72)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(72)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 それで、会話は途切れた。わたし達二人(?)とも、何となく黙り込んでしまった……心が読める二人の間で沈黙なんてものがあるとすればだが……
 わたしは、悠然と滑空するエリザの首筋につかまりながら、気流がその強さを増してきていることに気付いた……太陽はどんどん高くなっていく……エリザは、ちょっと体の一部を動かすだけで、自在に虚空を切り裂いていった。
 『そろそろ行きましょう!』
 彼女は、この時を待っ

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『天使の翼』第12章(71)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(71)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 『どちらも違うわね』
 「?」
 『トリックがあるの』
 「トリック?」
 『もし公園には彼らは入れない、となると、私達は、大挙してその地に移住することになるわ……もともといた部族と争いが起きるわね』
 確かにそうだった。
 『公園への彼らの立ち入りは、何の前触れもなく、突然解除されるの』
 ……そういうことか……殺戮の為のおぞましいシステム……
 『それには何のパターンもなく、結局、長い目で見

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『天使の翼』第12章(70)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(70)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 「はあー……」
 とても気持ちのいいため息が出た。
 「今気付いたんだけど、エリザ、この盆地に、人間は住んでいないのね?」
 エリザは、少し羽ばたいてから答えた――
 『そう。素晴らしい所なんだけど、人がたくさんいる海岸地帯から隔絶された山岳地帯の中にあって、しかも、昼夜、季節の寒暖の差が激しい……あなた達の言葉で何と言ったかしら、自然保護区?』
 「保護区……」
 『……公園に指定されているよ

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『天使の翼』第12章(69)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(69)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 彼は、最後にもう一度わたしに視線を据えた後、しなやかな身のこなしでエリザの横に並んだ。
 ――二人で何か会話を交わしているようだ。……テレパシー?……
 わたしは、ヒューヒュー吹き付ける風に、たまらずゴーグルをかけ直した。
 やがて、何事もなかったように、赤い鱗の巨獣は去って行った。
 『彼、あなたのことが気に入ったみたい』
 「えっ?……」
 わたしには、エリザが愉快そうに笑っているのではない

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『天使の翼』第12章(68)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(68)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 『他のデビル達が、私の背中にいるあなたに気付いたみたい――』
 彼女が言い終わるか終らぬ時、彼女の言葉を待っていたかのように、わたし達の頭上に影が差した。
 ぎょっとして見上げると、エリザより一回りは大きい、毒々しい赤みを帯びた鱗のデビルが、カッと目を見開いてわたしのことを見下ろしていた……5標準メートルもない……
 エリザとその巨大なデビル――わたしは、オスに違いないと思った――は、大空に同じ

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『天使の翼』第12章(67)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(67)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 いかに多くのデビルが舞っているとはいえ、広大な空間だ、他のデビルとの無用な衝突を避けるという意味もあるだろう、至近距離でほかのデビルとすれ違うような場面はほとんどない。
 しばらくして、エリザが、広く開脚した足を少しすぼめた。途端に、空間の一点を目指して滑空のスピードが上がった――
 (どうしたの!)
 『ちょっとお腹がすいてるの!』
 空間の遙か先に、何か黒い染みのような粒粒がもやもやしている

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『天使の翼』第12章(66)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(66)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 どれくらい経ったろうか、全く時間感覚が麻痺した中で、突然エリザが四本の脚を広げた。……実際には目を瞑っていたので、逞しい首筋に伝わってくる筋肉の動き、そして、被膜が広がったに違いないバサッという音で分かった。
 落下速度に急ブレーキがかかった。
 同時にわたしの全身、そして顔が、エリザの体の中に埋もれてしまうかに思えた。
 その後、文字通り爽快なグライダー飛行が始まった。――実際に乗っていると、

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『天使の翼』第12章(65)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(65)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 彼女の前脚の爪が崖っぷちにかかり、首が、完全に断崖の上に出た。その逞しい首にしがみつきながら、思わず下を見たわたしは、その落差に驚愕した――100標準メートル単位ではなく、キロメートル単位の断崖だった。遥か下の密林が、絨毯の模様のよう……流れている川は、まるで巨人の落としたヌードルのようだ……
 風の音……下からの力強い気流で、耳がピュウピュウ鳴る……
 わたしは、上半身が徐々に下向きになってい

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『天使の翼』第12章(64)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(64)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 『その帽子、顎紐はある?』
 「あっ!」
 確かに、このままでは飛び立った瞬間に吹っ飛んでしまう。……それにしても、帽子の顎紐、何て概念まで把握できるなんて、デビルの知性には目を見張る……
 改めて帽子をかぶり直そうとして、わたしは、制帽のひさしの上に乗ったゴーグルに気付いた。まるで帽子の飾りの一部のようで、今まで気にも留めてなかったけど、これを使わない手はない。
 顎紐をきつく締めた後しばしの

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『天使の翼』第12章(63)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(63)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 『近くの村まで連れてってあげる……村と言っても、人間たちが何やら地面を掘り返してる所だけれど』
 鉱山町に違いなかった。……すぐにエリザとお別れとは寂しかったが、ありがたい話だ。わたしは、余計なものは置いてくことにした――水の入った背負い鞄、食糧もそんなにたくさんはいらないだろう、救急キット……ちょっと迷ったが、捨てていくことにする。
 エリザが、前脚を伏せて、首筋を傾げてきた。
 (よし、乗っ

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『天使の翼』第12章(62)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(62)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 『あなたはしっかりこの毛につかまってればいい。後は、私が鱗でがっちりあなたを押さえてあげる』
 わたしは、頷いた。……よく見ると、丁度デビルの幼獣が母親にしがみつくと思われる辺りの鱗は、前向きに開く鱗と後ろ向きに開く鱗が、交互になっていた……赤ちゃんがしがみついて飛ぶんであれば、何も危険はないように思われた。――デビル・ハンターの真似をする必要は、全くないのだ。
 『……どう、決心付いた?』
 

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『天使の翼』第12章(61)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(61)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 わたしは、ごくりと唾を飲み込んだ。
 『見て!』
 エリザは、彼女の首筋の鱗を、バリバリ、バリバリと立てて見せた。
 わたしは、あっ、と声をあげていた。
 子供のデビルの鱗は指先ほどの大きさだったが、彼女の鱗は、改めて見ると優に30標準センチはある。立った鱗のしたには、毛のようなものが密生していた――
 『デビルは、思春期を迎える頃、子供のころあった鱗とは別に、大きな鱗が生えてくる……そして子供

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『天使の翼』第12章(60)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(60)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 わたしとエリザは、顔を見合わせた。
 言うまでもないことだが、この期に及んで、わたしは、怖じ気づいていた。空を飛ぶこと自体もさりながら、一体彼女の体のどこにつかまれというのだろう。振り落とされるとしか思えなかった……わたしには、デビル・ハンターのようなボディ・スーツも装備もない……耳をつまんで進む方向を指示するとか言ってなかったろうか……無理よ!
 エリザが、笑んだように見えた。
 『私達の赤ち

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『天使の翼』第12章(59)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(59)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 『わたしが、人間の名前を持つことになるなんてね……』
 その後、彼女……エリザは、恋の舞について――生物学的に言えば、ディスプレイってことなんだろうけど、既に、わたしの心の中でマウンテン・デビルは動物じゃなかった――、それが、とても危険な飛行であること、危険であれば危険であるほど愛情の強さを表していることなどを、具体的に身振りを交えて語ってくれた。本来グライダーとして飛び続けなくてはならないもの

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