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タイサル!第22話「北部調査その①:黄金の赤ちゃんを求めて〜ファイヤールトン編」

みなさんこんにちは、パスポートを更新したら新しいパスポートのデザインがカッコよくてテンションが上っている豊田です。浮世絵のいい感じの背景で、ページめくるの楽しみだなー。なんですが、タイの入管ってスタンプ押す順番とか平行とか一切気にせず適当に開いたところに適当に押されるんですよね。せっかくの浮世絵がカオスなスタンプに埋もれてしまうのかぁと思うと、もったいない気も...

というか、またスタンプで埋まるほど、海外渡航できるんやろか...コロナで足止め食らったまま研究員の任期が切れて次がなく転職せなあかんやろか...ヒエッ(最近ネガティブ


さて、今週と来週は、タイ北部調査のお話です。南部調査と違って北部はとにかく遠いのと、調査地間の距離がありすぎて陸路移動は非効率的&安全でないということで、移動はもっぱら飛行機、その先ではレンタカーという、一転して快適な調査の旅となります。

今回のYouTube動画はこちらです↓
https://youtu.be/WIF6MpMDNAM

いざ、ルーイ県へ!

ルーイ県はタイの北部に位置する県です。ドンムアン空港から国内線で一時間ちょっとでルーイ空港に到着します。

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今回の北部調査での空路移動はすべてNok Air。機体は多分DHC8-Q400。細長い機体に尖った先端、そこに鳥のクチバシのデザイン。可愛らしい飛行機です。

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空からの眺め。バンコク・スワンナプーム空港に着陸する時は、だんだん街が見えてきて整列したオレンジ屋根の家屋やトールウェイが見えてくると「バンコク来たなー」という気分になるのですが、ルーイの場合はいつまで経っても山、山、山...木が整然と植わっているあたり、植林地域があるのかもしれないですね。自然豊かな地方という感じです。

ちなみにこういうプロペラ機、動画で撮影していると、プロペラの回転周期と動画のフレームレートの関係で、回転が止まったり途中で逆回転しだすように見えたりします。GoProで撮影しながらプロペラが止まって見えた時は「落ちるんかこれ?機体ボロかったしな!」と一瞬だけ死を覚悟しました。

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機内預入荷物はこんな感じで運ばれてきて、各々勝手に持っていくシステム。テキトウやのぅ...

ルーイ空港到着後はすぐにレンタカーを借りて、早速ファイヤールトンを見に行きます。

ファイヤールトンが住むお寺へ

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調査地となるお寺の入口ゲート。随分と立派な作りです。

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お寺に入ると、早速ファイヤールトンの説明が書かれた横断幕がありました。でもこの写真、よく見ると、写っているのはファイヤールトンではなくダスキールトンのような...

というのも、ダスキールトンとファイヤールトン、すごくよく似ています。Trachypithecus属はどうやら5種群くらいに分かれているようですが、この両種とも同じT. obscurus種群に分類されています。

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こちらがそのファイヤールトン。ダスキールトンと比べると、目の周りの白さがちょっと曖昧で、頬の毛がちょっと長いかな、という印象です。

そしてこの写真を見てとっさに「ポパラングール?」と思った方は、相当なサル好きでしょう。昨年、ミャンマーで新種のラングールが見つかったというニュースででてきた、ポパラングールというサルとそっくりです。

新種のサル発見 すでに絶滅の危機か ミャンマーhttps://www.afpbb.com/articles/-/3315265

ポパラングールについては以下で詳細を読むことができます。

Roos et al. (2020) Mitogenomic phylogeny of the Asian colobine genus Trachypithecus with special focus on Trachypithecus phayrei (Blyth, 1847) and description of a new species. Zool Res.; 41(6): 656–669. 

この論文の図を見ると、ポパラングールの近縁種として、このファイヤールトンT. phayreiと、シャンステートルトンT. melameraという2種が挙げられていますが、私には判別が付きそうもありません...

ダスキールトンと違って、ファイヤールトンはインド、中国の一部のほか、バングラデシュ、ベトナム、ラオス、ミャンマーにも広く生息しているので、地域ごとに微妙な遺伝的差異があるのかもしれませんね。


黄金の赤ちゃんとご対面

ルトンを含めたコロブス類の仲間では、オトナとコドモで全く異なる毛色をしているというのは結構一般的だったりします。マカクの中ではベニガオザルやチベットモンキーなど一部ですが、コロブスはそうでもありません。

そして、ダスキールトン、ファイヤールトンの場合、オトナは黒・グレー系統の毛色に対し、赤ちゃんの毛色は黄金色なんです。

チュンポーン県でダスキールトンを観察していた時は、赤ちゃんに出会うことはできませんでした。なので、ファイヤールトンでは是非ともこの幼児色なる黄金の赤ちゃんを見てみたいと思っていました。

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こちらがその黄金の赤ちゃん。赤みがかった黄金色で、なんとも派手です!

コロブス類の赤ちゃんは、毛色が派手なことで、当然ですが天敵に狙われやすくなります。だからこそ、母親や周囲の個体は、赤ちゃんが派手な毛色のうちはしっかりと気にかけて世話をしてあげないといけません。その結果、派手な毛色であることのリスクよりも、周囲から集中的な世話を得られるというメリットが上回り、こうした幼児期特有の毛色が進化したのではないかと指摘されています(もちろんですが、諸説あり)。

そういう目線で見ていると、確かに赤ちゃんは常に誰か彼かに抱っこされていて、ひとりでウロウロすることはほぼありません。一方で、同じように赤ん坊の頃は真っ白な毛色で生まれてくるベニガオザルの場合、赤ちゃんは生後2週間もすると、ひとりで歩き始め、お母さんも知らん顔していることが多い「放任型」です。コロブス類とマカク類では、赤ちゃんの毛色の進化は別シナリオなのかもしれないなーと思って、今その研究をしようと思っているところです。科研費が通れば、ですが...


うんち拾い

私の任務は北部に来ても一緒、うんち拾いです。

サルのうんちを拾うためだけにわざわざルーイ県までやってくるとは、なんという旅だろうかと思うこともありますが、研究とはそういうものです。

今回はルトンなので、マカクのように簡単にはうんちが取れません。

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そしてこの調査地では、朝と夕方にちらっとお寺の境内に出てきてエサをもらったりしますが、あとは寺裏岩山にあるこの洞窟のような場所で過ごしていました。

サルたちは、この階段の木をかじったり、岩を飛び越えて遊んだり、やりたい放題。一方で高所恐怖症の私は、足をプルプルさせながら、この崩れかけの階段を登り、サルたちのうんちをひたすら待ちます。

ちなみに、後から知ったのですが、ここは崩落の危険性があるため立ち入り禁止区域でした。確かにゲートはしまっていたけど鍵はかかっていなかったし、なんか看板はあったけどタイ語は読めないし、サルたちは山奥に行くし、まぁいっか!と思って入っていったのですが、アカンかったらしい...すみませんでした...

おかげで岩場でうんち取れたし、許してくだされ...


ルーイ県といえば!

ルーイ県は、メコン川を挟んでラオスと隣接する県。国境警備も厳しいのですが、多くの国立公園指定エリアもあり、広大な山岳地域で育まれる動植物層は多様で、観光の名所でもあります。

そして、なんと言っても有名なのが「ピーターコン祭り」。

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「ピーターコン」とは、ピー:精霊、ター:目、コン:仮面劇という意味で、写真のようなお面をかぶった人たち(これが精霊らしい)が雨乞いや厄払いを目的として行うお祭りで、仏教説話に基づく儀式です。

開催時期は、その年、6度目の満月を迎えた第一週目に行われるのが習わしだそうで、だいたい7月頃に行われるみたいです。残念ながら私の調査時期はこのお祭りとはかぶらなかったので見ることはできませんでしたが、いつか実物を見てみたいですね。上の写真は夜市通りにあった像のものです。

この大きな仮面、実はお土産屋さんで購入することも可能です。しかし、随分とお高く、また大きいので、飛行機で持って帰るのは大変...しかもこの後はチェンライ調査も控えていて、大荷物を抱え込むのは得策とは言えず...

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やむなく、この120バーツの小さな人形たちやキーチェーンなんかをあれこれ買い込みました。随分と変わったデザインだし、こういう地域特有の文化って興味深いですよね。

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夜市で見つけたヤバいブランドのTシャツ。ほんと洒落にならん...
こういうのって、見つけた時は「誰が買うねんこんなの...」と思うのですが、あとになって考えると、「せっかくだし記念に買っておけばよかった!」と公開するんですよね。謎日本語Tシャツとか。

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今では想像できないほど密・密・密な夜市通り。タイのこういう雰囲気、好きだったんだけどなぁ...

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ラオスに沈みゆく夕日を眺めながら、ルーイ県での調査はおしまいです。

ルーイ県での滞在もあっという間に終わり、うんちを携えNok Airでドンムアン空港に一旦戻り、そのまま乗り換えでチェンライ県へと向かいました。

来週は、チェンライ県の地獄でアッサムモンキーのうんち拾いをしたお話です。
お楽しみに!

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タイサル!シリーズ過去の配信アーカイブはこちらから↓

連載コラム「タイでサル調査!研究奮闘記」配信開始のお知らせ
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n28a1dc0c9402
第1話「海外調査の生活拠点」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n985accf6fef3
第2話「調査地で楽しむタイ料理!食事編」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n5444528ab0bb
第3話「シャワーも命がけ!?お水事情その①」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/nf5bcd9a17bc1
第4話「シャワーも命がけ!?お水事情その②」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n7c4f68bf12d1
第5話「シャワーも命がけ!?お水事情その③」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n56d26d529251
第6話「泥水との激戦を終えて」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n375ca4ab7be2
第7話「調査生活のオトモ!タイの犬たち」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n7968f75aea75
第8話「その日のことはその日のうちに!調査の1日のルーティンワーク」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/nfdac8fac1ec6
第9話「忘れ物確認ヨシ!調査時の装備について」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n4fef7eb2e320
第10話「写真へのこだわり」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/na4da37e13e8d
第11話「誰だ誰だかわからない!個体識別の話」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n1648bde20bab
第12話「ゲシュタルト崩壊!全頭識別への道」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n24c3478ea661
第13話「サルたちの名前の付け方の話」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/nb6a8e6119ced
第14話「タイの仏教文化とサルたちの関係について」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n9a7a6814730d
第15話「タンブン行為で私が心配していること」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/nd1360f5568af
第16話「タイ生活の必需品、プラクルアンとは?」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n6bcc5b875bb5

タイ南北調査特集はこちらから↓
第17話「南北調査シリーズ開始&YouTubeチャンネル開設のお知らせ」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/ncab1c13b6bf9
第18話「南部調査その①:Puckerを拝みに...キタブタオザル編」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n5d3df0969439
第19話「南部調査その②:白いメガネが印象的!ダスキールトン編」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/na32091a5b055
第20話「南部調査その③:見慣れたサルのはずなのに...ベニガオザル編」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n3488e5942c1a


番外編の過去の配信アーカイブはこちらから↓
私論:「ココナッツモンキー」は動物虐待なのか?
https://note.com/arctoidestoyoda/n/ne6add28fc064
遺跡の街ロッブリーに住むカニクイザルの歴史
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n1679cb4029b2

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