深海を泳ぐ、絶望を凌ぐ

この世には魔法も奇跡も救いもない。

パチンと泡が弾けてしまうように、苦しい現実を感じさせられるこのような瞬間はいつだって苦しかった。
絶望の淵に立たされる度に思い出す。だれかのエッセイを読んで腑に落ちた言葉。逆に言えばこの言葉を思い出す時には、鏡の自分には瞳に光がなく、表情が死んでいる。そんな時には既に深い海の中にいて、地上の声も陽の光も届かない。底で溺れている人間に一切の救済はなく、ただ、心が壊死する音だけが響く世界に閉じ込められてしまう。


それを解決してくれるのは大量の音楽と時間だった。

心がなくなっても身体ごと死んでしまえる体力もなければ、毎日明るく生きていける元気もなかった。好きだったものに興味をなくし、暇を潰すように無の感情でやることを進める。それでも上手くいかない時もあって、そんな時は布団に横になる。
真っ黒な感情になる前に音楽を流す。
好きな音楽は何度も聴くからこそ、いつも使う音楽アプリには好みの音楽の履歴が沢山表示されている。現代の指1つで音楽を流せるテクノロジーの発達に毎度物凄く救われているなと感じる。
リズムを感じて、歌詞を追って、メロディーを口ずさめば真っ黒な感情が飛んで頭が空っぽになっていく。知らぬ間に入っていた力が抜けて、深い海から少しづつ浮上していく感覚。
そんなふうに考えなくても出来ることで時間を消費した。なんて贅沢で無駄な時間の使い方なんだろう。だけど、こうすることで死なずにいられるなら、生きていると見なされるのならそれで良かった。生きていると思って生きていない。音楽に、時間に、この無駄さに生かされている。生きたくないけど死にたくない私が許されて今、ここにいる。

魔法があれば良かった。
こんなに時間を無駄にせずとも、誰かに迷惑をかけずとも、そもそもこんな気持ちに悩まされることすらもなくて済んだかもしれないのに。
この世には魔法も奇跡も救いもない。
残酷で、虚しくて、苦しい。
だけど、何も気にせず自由に動いてもいいと許すことができる。時間を有効に活用しても無駄にしてしまっても誰も咎めない。絶望をひっくり返すことはできないけれど、時間や無駄さを許して、幸せを手に入れるために遠回りをする経験をして、次は他の誰かに優しくなれる。次はもっと効率良く這い上がれる。次に何かを頑張る糧になる。次に必ず、今より幸せになれる。


心が開始した。海は凪いでいる。
今日は好きなアーティストの新曲を聴こうかな。そうやって自分を慰めて、励まして、生きていくことにする。大切な人生を一生懸命紡いでいくために。





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