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砂の城(創作大賞投稿作品)

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長年考えていた恋愛話を纏めております。暗い部分も多いですが、とにかく人の感情揺れ動きとリアル重視。 ハッピーエンドですのでご安心ください。 42話完結
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2024年6月の記事一覧

【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第11話 奇妙な部屋人

【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第11話 奇妙な部屋人

 あの日、忍は私の前から何も言わずに消えた。でもこの結末は最初から分かり切っていたもの。全ては、忍の記憶が元に戻らなければいいなんて願った私の所為だと思う。
 私が大学へ行っていい仕事に就けるようお金を貯めると言って忍は笑顔のまま家を出た。
 でも私は別に大学へ行きたかったわけでは無い。家にお金が無いのであれば、すぐに仕事をするつもりだった。
 ただ、あの時は母さんの過剰な期待に答える事に必死で、

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【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第12話 物好きな人間

【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第12話 物好きな人間

 悩み事があっても仕事を休むわけにはいかない。ため息をつき、私はいつものように準備をしてフロアへと足を向けた。

「きゃあああっ! 荵様だわ〜!」

「あれが歌舞伎町No.1の実力者のオーラなのね……!」

 既に客がいるはずなのに、妙にフロアがざわついている。誰か上客が来たのだろうか。気になり、キャバ嬢が密集している先に視線を向けた。
 鮮やかな金髪と正反対のダークグレーの高級スーツ。銘柄は知ら

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【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第13話 忍side ー 困惑

【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第13話 忍side ー 困惑

「今回の企画ポシャったんですか?」

『ちょいと上層部で資金のやり取りで問題が出ててね。企画自体は進んでいるんだけど、下請け業者の解雇が正式に決定になったんだ』

 最悪だ。今回の仕事は某遊園地の立て直し事業で、3年プランの契約だったはず。しかし大元から具体的な話が俺達下の方に降りて来ないので結局一旦こちら側も撤退、という形になったのだ。
 そうなると困るのは上層部ではなく、俺達日雇い労働者だ。上

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【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第14話 忍sideー 転職

【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第14話 忍sideー 転職

 警備のバイトを増やした事で俺の生活は何とか持ち直した。しかし長年建築関連で世話になっていた勝己さんの訃報を聞いたのはつい昨日の事だ。
 死因は心筋梗塞。ヘビースモーカーだった勝己さんは相当肺もやられていたらしい。
 心臓の手術もしているが、医者と嫁に止められてもタバコは死ぬまで止められないと言い張っていた。俺も他人事とは言えない。

 麻衣にもタバコはやめろと言われていたが、口寂しくてどうしても

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【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第15話 隔てられた距離

【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第15話 隔てられた距離

 私は霧雨荵さんと互いの利害の一致という事でお付き合いすることになった。利害の一致と言っても100%私が得をしているだけで、彼にとっての利益は謎のままだ。
 彼が私を指名して、時間の許す限り延長してくれるので店には多額の金が入り、そのお陰なのかいじめは無くなった。
 霧雨さんを敵に回すと営業に響くのだろう。もしかしたら私に手出ししないよう店長が全員に通達したのかも知れない。
 結局は権力と金が無い

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【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第16話 傷の舐め合い

【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第16話 傷の舐め合い

「今日もご来店ありがとうございます、荵さん」

 私の言葉に物凄く驚いた様子で彼は固まっていた。それもそうだ、私が彼を荵さんと呼ぶのはこれでやっと2回目。

「マキちゃん、嬉しいよ! やっと僕の事を認めてくれたんだね」

 人前で堂々とハグしてきたがもう同僚の羨望と憎しみの眼差しなど気にしない。
 あの日、新しい場所で楽しそうにしている忍を見てモヤモヤした感情が吹っ切れたと言えば、吹っ切れたのかも

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【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第17話 忍sideー 子供

【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第17話 忍sideー 子供

 N大附属病院は意外と働きやすい場所で、俺みたいに資格を持たない奴にもみんな優しく接してくれた。
 特に看護師さん達は動けない患者さんの世話をするのが大変みたいで、俺でもそこそこ役に立っているらしい。
 何ヶ月働けるかな、なんてぼんやりと考えていたものが、気がついたらもう一年が経過していた。俺の後輩に当たる男性の介護助手も一人入ってくれたので、益々話しやすい環境になって万々歳だった。

 丁度その

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【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第18話 忍sideー 麻衣

【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第18話 忍sideー 麻衣

 飯以外で澤村とこうやって出るのは初だったが、蒼空があいつの事を気に入ってくれたお陰で俺は気兼ねなくタバコを吸ってのんびり出来た。
 弘樹は今も俺から奪ったマルボロを吸っている。止める以前は散々俺にバカになる、とか勃たなくなる、とか言いまくってたくせに。

「な? 久しぶりだと美味いだろ?」

「お前さ、こんな不味いやつよく長年吸ってるよな……」

 流石に過去を吟味して考え直したのか、短くなった

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【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第19話 捨てられないタバコ

【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第19話 捨てられないタバコ

 私はいよいよ西東京市にある部屋を解約する為、隙間時間で片付けをしていた。
 元々そんなに荷物のない部屋だったが、少しずつ広くなる様子を見ると、ケジメをつける時なのだと思い知らされる。

 そんな矢先、珍しく雪ちゃんからLINEが来た。子育てで忙しい彼女は弘樹さんがお休みでかつ、子供を丸々面倒見てくれないと動けないはずだ。私もこの部屋に誰かを招くのはこれで最後と思い、雪ちゃんに住所を伝え彼女に西東

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【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第20話 捌け口

【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第20話 捌け口

 雪ちゃんが帰った後、新宿を目指した。
 駅から降りるとやけにいつもと様子が違う。西側に広がる空気が重苦しい。
 不安を感じ、西新宿にある家へと足を進めると、白い煙と焦げ臭い匂いが近づかなくてもわかるくらいに立ち込めていた。おまけに家の周りには人だかりが出来ている。

「ボヤ騒ぎらしいわよ」

「燃える素材じゃないのにねぇ……怖いわ」

 あれは、私の住んでいるマンション!
 慌てて中に入ろうとし

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【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第21話 忍sideー 親愛

【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第21話 忍sideー 親愛

 俺は人生初めて健康診断を受けた。総合診察の担当は内科の藤堂先生なんだが、俺の名前を見慣れているはずの先生は不思議そうにパソコンを睨みつけた。

「田畑君って一人っ子かい?」

「親も死んでるんで、もう天涯孤独っスよ」

 俺はいつものように軽く笑いながらそう話す。俺は母さんに絶縁されている身なのでこれはあながち間違いでは無い。
 ただ、麻衣の事は誰にも伝えないでいた。全てを知っている弘樹も職場で

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【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第22話 忍sideー 襲撃

【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第22話 忍sideー 襲撃

「ねえねえ、今度温泉旅行に行きたいよね」

「そうだな……」

「箱根くらいだったら行けるよね、日曜日はママさん達休み欲しがるから、平日なら休み合わせられるし」

「ああ……」

 俺は澤村の話を聞きながら今日弘樹に怒鳴られた事を反芻していた。
 あいつは普段全く怒らない癖に、俺と麻衣の話になると人が変わる。
 今の俺に麻衣を守るチカラは無いし、あのシノブって奴が麻衣を守ってくれるのならばそれに任

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【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第23話 埋まらない溝

【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第23話 埋まらない溝

 私は慌てた様子の店長に突然呼び出しを受けた。どうやら私宛の電話らしい。
 弘樹さんからのようで、私の命に関わる大事な事と言われて渋々受けたらしい。
 一緒にVIPルームに居た荵さんもやや不満そうな顔をしていたが、彼を何とか宥めて電話に出た。

『麻衣ちゃん、N大附属病院の手術室前まで来て! 今すぐ!』

 弘樹さんの声の後ろで救急隊の声と、女性の声が聞こえる。その人が忍と連呼していたので、私にも

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【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第24話 奇妙な女の友情

【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第24話 奇妙な女の友情

 手術中という赤いランプを睨みつけていると、背中にそっと暖かいものがかけられた。弘樹さんの使っている黒いカーディガンだ。

 そのまま弘樹さんの肩を借り、痛む足を引きずりながら待機用の椅子に腰掛けた。
 一気に疲労の波が押し寄せ、忘れていた両足裏の痺れと熱が痛み疼き始めた。

「麻衣ちゃん、ちょっと待っててね」

 弘樹さんが何処かに向かったので、私は一時的にに忍の彼女と二人きりになったが、互いに

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