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コーヒーの苦味が、おいしくなるとき
「カプチーノ、ください」
カフェでカプチーノをオーダーするとき、私には、記憶から引っ張り出して思い出してしまう景色がある。それは、地球の反対側のオーストラリアに住む、血の繋がらないおばあちゃん、ジュディと、初めてコーヒーを飲みに行った日のことだ。
今では、自分のどこにそんな勇気が眠っていたのだろう? と不思議に思うけれど、10年前、若くて怖いもの知らずだった私は、1年間、高校生の身分でオース
バスの中で受けた、人生の授業
「迷惑になるでしょう! やめなさい!」
ピシッ!
からりと晴れた日曜日、浅草へ向かう穏やかなバスの後部座席で、窓から差す光にまどろみそうになりながら、スマホで歯医者の予約をしていると、誰かがひっぱたかれる音がして、私は瞬間的に顔を上げた。
その音は、私の前の2人掛けの座から聞こえたもので、音の先には、長い髪を1つに束ね、黒ぶち眼鏡をかけた化粧っけのない母親が、2歳くらいの小さな女の子をものすごい形
女優の卵、なっちゃんが見せてくれた光に導かれて
「まもなく、開演いたします」
アナウンスが流れた下北沢にある小さな劇場で、私はじんわりと手のひらに汗をかきながら、幕が上がるのを待っていた。なっちゃんが踏む初舞台……、彼女の夢がまた1つ叶っていく瞬間が、あと数秒でやってくると思うと、私まで緊張し、胃がきゅんと痛む。
次の瞬間、会場が真っ暗になり、静けさが広がる。そして、ステージにスポットライトが当たり、キャストたちが登場した。悪役を演じるなっ
月の美しさをわけあえたら
「今日はスーパームーンだって。帰ったら、月見しない?」
仕事が終わって携帯を見ると、同じシェアハウスに住む友人からラインが来ていた。月見なんて言葉は辞書になさそうな、外資コンサル勤めの住人から届いた、思いがけないラインに、自然と顔がほころぶ。5歳年下の23歳の彼は、よく一緒にご飯を作る仲良しの1人だった。
「月見って、あいつ、かわいいなぁ」
私はそうつぶやいて、うさぎが親指を突き出しているOKスタ
乗り継ぎ空港のようなシェアハウスでの生活
私は今、100世帯くらいが入る大型シェアハウスに住んでいる。シェアハウスといっても、もともと社員寮だったところが改装された物件で、各部屋にトイレやお風呂、ミニキッチンなどが備え付けてあるので、ほぼ一人暮らしと変わらない。交流の場として、大きなシステムキッチンやリビング、屋上のスペースがあり、そこで住人たちと自由に交流できる。
シェアハウスは乗り継ぎ空港を彷彿させる。様々な人種が、それぞれのユニー