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五十嵐耕平『SUPER HAPPY FOREVER』
五十嵐耕平監督の『泳ぎすぎた夜』(ダミアン・マニヴェル監督との共同作)の序盤で、主人公の小さな男の子がポケットから取り出したみかんをむきはじめたあと、別のことに気を取られて手袋を落としたことに気づかないというシーンが大好きで(といっても、配信もなくなってしまって、あたしの記憶違いでないことを祈る)、「ああ、道端に落ちている手ぶくろはこうやって忘れられていくんだな」と思った。瞬間を生きる男の子の、も
もっとみるアクレサンダー・ペイン『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』(2023)人間の経験に新しいものはない
アレクサンダー・ペイン監督とポール・ジアマッティの『サイドウェイ』タッグ再びということだが、『サイドウェイ』もアレクサンダー・ペインの作品もどれも観たことがないので、初アレクサンダー・ペイン。
70年代の精神を示すように、冒頭のユニバーサルロゴ、FF、Miramaxのロゴが古めかしく、ノイズの演出まで入っていてなんだか懐かしい。1.66:1の狭い画角は、同じフレーム内に収まりたくない人々が窮屈そ
アナ・リリー・アミールポアー『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』2022 抵抗する女たちの奇妙なお伽話。
赤い月と笑わない女。抵抗する女たちの奇妙なお伽話。
イラン系アメリカ人のアナ・リリー・アミールポアー監督長編3作目。宣伝に〈次世代のタランティーノ〉と謳われていたのでグロいのかな〜と思っていたらぜんぜんそんなことなかった。タランティーノという男性監督の名前を冠にするのもどうなんだろう?そもそもタランティーノのどの要素を?とか思っちゃった。
笑わない女こと主人公のモナは統合失調症により精神病院に
アリーチェ・ロルヴァケル『無垢の瞳』2022 - いたずら心満載のクリスマス映画短編
スーパー16と35mmフォーマットで撮影され、第75回カンヌ国際映画祭でプレミア上映。第95回アカデミー賞短編映画賞にノミネート。アリーチェ・ロルヴァケル、『夏をゆく人々』も『幸福なラザロ』も大好きなのに新作『墓泥棒と失われた女神』を見に行くには命がけすぎる(暑すぎて)とおもって見に行けずにぐずぐずしているあいだに短編『無垢の瞳』を観た。
第二次世界大戦中のイタリア、カトリックの孤児院でのクリス
マイテ・アルベルディ『エターナルメモリー』(2023) けっして忘れられない敬意とやさしさの物語。
「わたしはあなたが誰か思い出してもらうために来たの」と、アウグストに優しく語りかけるパウリナの姿から幕を開ける映画「エターナルメモリー」は悲痛な日々に満ちながらも、けっして忘れられることのない敬意とやさしさのかけらを記憶した忘れがたいドキュメンタリーだった。監督は『83歳のやさしいスパイ』マイテ・アルベルティ監督。前作もドキュメンタリーながら、機知に飛んだ奇抜なアイディアがとても楽しいと同時に、「
もっとみるランドル・パーク『非常に残念な男』(2023)アイデンティティ・クライシス、またはAssholeについて
俳優でもあるランドル・パークの長編デビュー作『Shortcomings』(=欠点)、『非常に残念な男』というあまり言いたくない邦題で残念(配信スルーなのでしかたないか)。最低男ベンには、『アフター・ヤン』で最高なアンドロイドを演じていたジェスティン・H・ミンが爽快なクソ野郎を演じていてとても楽しい一作だった。原作は、エイドリアン・トミネのグラフィックノベル。映画館で働いているという古臭い映画オタク
もっとみるアニエス・ヴァルダ『アニエスV.によるジェーンB.』(1987) 40歳の誕生日に贈るスペシャル・ギフト
ジェーン・バーキンとアニエス・ヴァルダ。ひとりは時代を象徴するファッションアイコンであり、もうひとりはいち早く女性性に重きをおいた映画を撮った先駆的な映画監督。最高のコラボレーションだ。出会いは、『冬の旅』を見て感動したジェーンがヴァルダに手紙を書いたことがきっかけだったとか。手紙を受け取ったヴァルダはすぐにジェーンに「会いましょう」と電話した。(ジェーンの手紙の文字が読めなかったから、もしくは読
もっとみるルカ・グァダニーノ 『チャレンジャーズ』(2024) 規範としてのテニス、欲望の肯定
ルカ・グァダニーノはつねに「欲望」というものを描いてきた。社会から肯定されえないものを、唯一無二の美しさをもって描いてきたと言えるかもしれない。そんな彼が「テニス映画」という体をとって、社会から逸脱する3者の「欲望」を描く『チャレンジャーズ』が型破りでたいへん目の回るセクシャルでゾワゾワする映画だった。
これがあらすじ通り、愛=ゲームなのか?と問われればそうなんだろうか?と思う。三者はいずれも規
ギヨーム・ブラック 『宝島』(2018) - 胸が掻き乱れて幸福になるヴァカンス映画
夏はめちゃくちゃに嫌いだけど、ヴァカンス映画は楽しい。それは、わたしが知らない夏を教えてくれるからなのだけど、ギヨーム・ブラックの撮る夏がいっとう好きだ。いろんな人の、いろんな記憶のなかに宿るいろんな形の青春がぎゅっと集約されていて、夏が大嫌いなひとにも訪れた(ように思える/夏は外に出たくないのでわたしにはそんな夏はなかったと思うのだけど)夏の思い出を振り返っては、なんだか胸が掻き乱れて幸福な気持
もっとみるレイチェル・ランバート - 時々、私は考える(2023) Sometimes I think about dying
「It’s hard, isn’t it? Being a person.」
サンダンス映画祭USドラマティック・コンペティション部門オフィシャルセレクション作品。「スターウォーズ」のデイジー・リドリー主演。人付き合いの苦手な主人公が、新しくやってきた同僚との交流を通して、「人間をすること」の楽しさや苦しさを知っていく。『心と体と』を彷彿とさせつつ、この映画が主人公フランを病的な人間として描かない
ジョセフィン・デッカー Shirley シャーリイ (2019) あたしの声を聞いてほしい
2022、1時間47分、1.85:1
監督:ジョセフィン・デッカー
脚本:サラ・ビギンズ
原作:スーザン・カリフ・メレル『Shirley: A Novel』
出演:エリザベス・モス、マイケル・スタールバーグ、オデッサ・ヤング、ローガン・ラーマン
大好きだった。怪奇作家シャーリイ・ジャクスンが初期長編傑作『絞首人』を描くまでの過程を伝記要素とフィクションを織り交ぜて描いた『Shirley: A n