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ジョセフィン・デッカー Shirley シャーリイ (2019) あたしの声を聞いてほしい

2022、1時間47分、1.85:1 監督:ジョセフィン・デッカー 脚本:サラ・ビギンズ 原作:スーザン・カリフ・メレル『Shirley: A Novel』 出演:エリザベス・モス、マイケル・スタールバーグ、オデッサ・ヤング、ローガン・ラーマン 大好きだった。怪奇作家シャーリイ・ジャクスンが初期長編傑作『絞首人』を描くまでの過程を伝記要素とフィクションを織り交ぜて描いた『Shirley: A novel』原作の映画化ということだった。痛みや混乱は、ほんもののように思えたし、

    • ルカ・グァダニーノ 『チャレンジャーズ』(2024) 規範としてのテニス、欲望の肯定

      ルカ・グァダニーノはつねに「欲望」というものを描いてきた。社会から肯定されえないものを、唯一無二の美しさをもって描いてきたと言えるかもしれない。そんな彼が「テニス映画」という体をとって、社会から逸脱する3者の「欲望」を描く『チャレンジャーズ』が型破りでたいへん目の回るセクシャルでゾワゾワする映画だった。 これがあらすじ通り、愛=ゲームなのか?と問われればそうなんだろうか?と思う。三者はいずれも規範の上で右往左往しているような印象があり、それを優に超えてくる規範を超えた愛の形

      • ギヨーム・ブラック 『宝島』(2018) - 胸が掻き乱れて幸福になるヴァカンス映画

        夏はめちゃくちゃに嫌いだけど、ヴァカンス映画は楽しい。それは、わたしが知らない夏を教えてくれるからなのだけど、ギヨーム・ブラックの撮る夏がいっとう好きだ。いろんな人の、いろんな記憶のなかに宿るいろんな形の青春がぎゅっと集約されていて、夏が大嫌いなひとにも訪れた(ように思える/夏は外に出たくないのでわたしにはそんな夏はなかったと思うのだけど)夏の思い出を振り返っては、なんだか胸が掻き乱れて幸福な気持ちにさせてくれる『宝島』はほんとうに最高な作品だった。 エリック・ロメールの『

        • レイチェル・ランバート - 時々、私は考える(2023) Sometimes I think about dying

          「It’s hard, isn’t it? Being a person.」 サンダンス映画祭USドラマティック・コンペティション部門オフィシャルセレクション作品。「スターウォーズ」のデイジー・リドリー主演。人付き合いの苦手な主人公が、新しくやってきた同僚との交流を通して、「人間をすること」の楽しさや苦しさを知っていく。『心と体と』を彷彿とさせつつ、この映画が主人公フランを病的な人間として描かないことにたいへん好感。自己受容についての話。 冒頭、街を切り取ったなんの変哲のな

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        ジョセフィン・デッカー Shirley シャーリイ (2019) あたしの声を聞いてほしい

        • ルカ・グァダニーノ 『チャレンジャーズ』(2024) 規範としてのテニス、欲望の肯定

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          ミハウ・クフィェチンスキ - フィリップ(2022)Filip

          ポーランド系ユダヤ人作家のレオポルド・ティルマンドが42年のドイツで過ごした実体験をもとに執筆した自伝的な小説を映画化した『フィリップ』。 ワルシャワのゲットーで家族と恋人をナチスに殺された青年フィリップは、2年後、フランクフルトでフランス人と偽って、ホテルで働いている。そのかたわら、官能的な容姿を武器に、ナチス上流階級の孤独な女性たちを誘惑し、自分への気持ちが明らかになると彼女たちを無残に捨てる。「純血を守る」ために外国人労働者との婚外交渉が禁止されていた当時では、それは劇

          ミハウ・クフィェチンスキ - フィリップ(2022)Filip

          トッド・ヘインズ - キャロル (Carol) 2015

          人混みのなか、自然と混じり合う視線と視線、その瞬間そこは不思議な世界が出来上がる。誰もそんなことには気づかないで買い物に夢中になっている。誰も知らない、見えない、そこにはふたりだけの世界が広がる。この世のなかには、ときどきこんなにもロマンチックな世界が、わたしの気づかないうちに起こっている。いま、あなたが買い物に夢中になっているデパートのなかで、あなたのすぐそばでだって起こっているかもしれない。なんて不思議なんだろう!と言いたくなるほどにロマンが溢れかえっているのだ。 パーテ

          トッド・ヘインズ - キャロル (Carol) 2015

          クレール・ドゥニ - 美しき仕事 (1990) Beau Travail

          Sight & Sound誌「史上最高の映画」リストやVariety誌「史上最高の映画100本」など、世界的に確固たる地位を築いているフランスの映画監督クレール・ドゥニによる幻の傑作『美しき仕事』が、ついに劇場公開となる。 2016年にオスカーを受賞した『ムーンライト』(バリー・ジェンキンス監督)や昨年日本でも公開され大きな話題を呼んだ『aftersun/アフターサン』(シャーロット・ウェルズ監督)にも多大なる影響を与えたことでも知られ、つねに新たなジャンル、スタイルを追求し

          クレール・ドゥニ - 美しき仕事 (1990) Beau Travail

          ピーター・ウィアー - ピクニック at ハンギング・ロック(1975) picnic at hanging rock

          傑作。1900年、セイント・ヴァレンタインデーの日に、ピクニックにでかけた女子学生たちと教師の倦怠な午後は、生徒3人と教師1人の失踪によって暗転。寄宿学校として規律を重視してきた学園内の歯車が狂い始める。映像の耽美性とその謎があまりにも甘美すぎて、不穏な白昼夢を観ている気になる。絵画的でもあり、少女たちは美しい。19世紀中頃に、ハンギングロック付近にいた原住民たちが追い出され、英国が植民地化したということ。そして原住民たちは岩山に神聖さと精神のつながりを見出していたらしいとい

          ピーター・ウィアー - ピクニック at ハンギング・ロック(1975) picnic at hanging rock

          アンドレアス・ドレーゼン - ミセス・クルナス vs. ジョージ・W・ブッシュ (2022) Rabiye Kurnaz gegen George W. Bush

          第72回ベルリン国際映画祭銀熊賞(主演俳優賞/脚本賞)作品。『グンダーマン 優しき裏切り者の歌』(2018)のアンドレアス・ドレーゼン監督。米国9・11テロから20年以上が経過した今、グアンタナモ収容所のことを覚えている人はどれぐらいいるのだろう。『モーリタニアン 黒塗りの記録』が2021年だから、これをきっかけにまた調べたりした人もいるかもしれない。ドレーゼン監督は、無実の罪で5年もの間グアンタナモに収監されたムラート・クルナス本人の著作の映画化を計画するも、あまりにも悲惨

          アンドレアス・ドレーゼン - ミセス・クルナス vs. ジョージ・W・ブッシュ (2022) Rabiye Kurnaz gegen George W. Bush

          ジョナサン・グレイザー - 関心領域 (2023) The Zone of Interest

          カンヌ国際映画祭グランプリ受賞、アカデミー国際長編映画賞・音響賞受賞。アカデミー賞では、ジョナサン・グレイザーが、ガザへの連帯を表し、「ホロコーストをハイジャックして、無実の人々を巻き込んだ紛争の原因と占領の正当性を拒む人間としてここに立っています。」というスピーチが素晴らしかった。マーティン・エイミスの同盟小説を換骨奪胎し、収容所の真隣りで暮らす中産階級一家の日常を描き出す。 真っ暗な背景のなか、ミカ・レヴィの不協和音が流れ、タイトルが出るという始まり方は、この映画では音

          ジョナサン・グレイザー - 関心領域 (2023) The Zone of Interest

          ジェーン・カンピオン - エンジェル・アット・マイ・テーブル (1990) an angel at my table

          ジェーン・カンピオンの長編3作目。もともとはニュージーランドでのテレビ放映用として作られた作家ジャネット・フレイムの自伝3部作を映画化したもので、「To the Is-land」「An Angel at my table」「The Envoy from Mirror City」の3作のうち、リルケの詩をもとにつけられた「An Angel at my table」がタイトルになっている。感性が繊細すぎるがゆえに「統合失調症」と誤診され、8年間ものあいだ入退院を繰り返し、200回

          ジェーン・カンピオン - エンジェル・アット・マイ・テーブル (1990) an angel at my table

          タイカ・ワイティティ - ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル(2016) Hunt for the wilder people

          タイカ・ワイティティはどうしてこんなに優しいんだろう。「愛している」と言われること、愛されていると認識できること。そういったことを描いてきたティーンエイジャーの物語はこれまでもたくさん作られてきた/そして、これからもたくさん作られるだろうけれど、ワイティティのこの映画が特別な愛の映画として描くのではないまま、特別な映画になってしまったことに驚いてしまった(そして、それは瞬間によるかけがえなさに由来している)。なにより、13歳のリッキー・ベイカーを演じたジュリアン・デニソンの輝

          タイカ・ワイティティ - ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル(2016) Hunt for the wilder people

          アンドリュー・ヘイ - 異人たち(2023) All of Us Strangers

          大林宣彦監督が映画化した脚本家・山田太一による小説「異人たちの夏」(1988年)は、大林流の奇妙で不可思議な家族映画だった。一方、同小説のかなり自由な形でのアダプテーションといえるアンドリュー・ヘイ監督の最新作「異人たち」は、幽霊譚の枠組みを利用し、孤独と悲しみについて考察した作品だった。 奇妙な静けさをまとうタワーマンションに暮らす40代の脚本家アダムは、12歳のときに亡くした両親との思い出に基づく脚本を執筆している。ある日、幼少期に過ごした郊外の家を訪れると、他界した父

          アンドリュー・ヘイ - 異人たち(2023) All of Us Strangers

          エンリオ・カサローザ - あの夏のルカ (2021) Luca

          短編「月と少年」でアカデミー賞短編アニメーション部門にノミネートされたエンリコ・カサローザ監督の初長編アニメーション作。ピクサー製作。一度配信で観ていたものの、劇場公開されるということで、劇場でもう一度観たら、こんなにもいい作品だったか、、、と映画のスクリーンから飛び出てくるエネルギーをふんだんに浴びて、めまいがした。 シー・モンスターと呼ばれる種族が海で暮らしていて、彼らは人間を恐れている。シー・モンスターである13歳の少年ルカも、両親から「人間には気をつけて!」「好奇心

          エンリオ・カサローザ - あの夏のルカ (2021) Luca

          濱口竜介 - 悪は存在しない(2023) Evil does not exist.

          2023年ヴェネツィア国際映画祭コンペティション選出作品。対話可能性と対話不可能性のバランスの危うさを描いているのはなんだか『ハッピーアワー』を彷彿させた。撮影に『ハッピーアワー』の北川喜雄が参加しているので、もう一度『ハッピーアワー』を観たくなる。 物語は、都心から3時間ほどにある自然のなかの村。冒頭、石橋英子の音楽とともに、木々を仰角で捉えるシーンからはじまり、ザクザクと雪を踏みしめる音がかぶさっていく。主人公のタクミは忘れっぽく、いつも娘ハナのお迎え時間を忘れ、ハナは

          濱口竜介 - 悪は存在しない(2023) Evil does not exist.

          キム・スイン - 毒親 ドクチン(2023) 독친/Toxic Parents

          『オクス駅お化け』脚色の新鋭キム・スイン監督長編デビュー作。もともとは脚本だけを任されたらしいけど、キム・スイン自身も監督志望ときいて監督にも抜擢されたらしい。女性監督がどんどんとおもしろい作品を作っていてうれしいね。愛についての考察。愛は押しつけるものではなく、見返りを求めないもの。家族でも友人でも恋人でも、どんな関係においても配慮と尊重が消えた愛はお互いを傷つけるということを、親子間の悲劇的な結末をもって描く。と同時に、個人の経験にとどまらず、社会の不条理をも照射する。優

          キム・スイン - 毒親 ドクチン(2023) 독친/Toxic Parents