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クレール・ドゥニ - 美しき仕事 (1990) Beau Travail

Sight & Sound誌「史上最高の映画」リストやVariety誌「史上最高の映画100本」など、世界的に確固たる地位を築いているフランスの映画監督クレール・ドゥニによる幻の傑作『美しき仕事』が、ついに劇場公開となる。 2016年にオスカーを受賞した『ムーンライト』(バリー・ジェンキンス監督)や昨年日本でも公開され大きな話題を呼んだ『aftersun/アフターサン』(シャーロット・ウェルズ監督)にも多大なる影響を与えたことでも知られ、つねに新たなジャンル、スタイルを追求しながら、人間の欲望、暴力、愛のかたちを瑞々しく映し出してきたクレール・ドゥニの紛うことなき傑作。アフリカの大地と荘厳な音楽。目が眩むようなあの夏の切なくも美しい日々。

クレール・ドゥニ監督は、かつて来日した場で「天才」と名指されたことを受け入れながらも「でも私は、自分が天才ではないことを自覚しています。(… …)私は映画を全面的に信頼しているのです」と反応したし、ジャック・リヴェットやヴィム・ヴェンダースの助監督時代を振り返り、リヴェットからは、俳優たちへの完璧な信頼と自分自身をすこし危険に晒すことを学び、ヴェンダースからはリヴェットのものとはすこし異なる種類の信頼、美学ではなくカメラによって自由になること、場所に対する完璧な信頼を学んだと言ったりしているらしい。この言葉が示すかのように、ストーリーを重視しない『美しき仕事』にとても混乱させられると同時に、その美しさに魅了させられた。回想と現在が入り乱れ、境界線はあいまい。会話は最小限にとどめられ、ガルーが心の内を語ることはほとんどない。ガルーの執着と嫉妬心の種はいったいなんだったのか。それは同性愛的な欲望なのか。いま何を見せられているのか分からなくなることがある。ただただ、ジブチの紺碧の海と、太陽が照り付ける砂漠のなかで、男性の身体の躍動(ドニ・ラヴァンのまるで彫像のような顔面や隆起した身体と対称をなすようなミシェル・シュポールの華奢な身体と部隊からの人気を獲得する人懐こさが滲み出る顔)をリズミカルに捉える映像を見続けることになる。しかし、軍隊という規律のなかで抑圧されたなにかが弾ける瞬間は映画史上最高のエンディングで、かれはてた肉体の再起を想起させる爆発的な喜びにあふれたラストに魅了され、この混乱とショットの力強さ、ドニ・ラヴァンやミシェル・シュボールら俳優への信頼がドゥニの映画を傑作にたらしめているのだろうとおもう。


Beau Travail
1999/93分/1.66:1/カラー
監督:クレール・ドゥニ

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