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アクレサンダー・ペイン『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』(2023)人間の経験に新しいものはない

アレクサンダー・ペイン監督とポール・ジアマッティの『サイドウェイ』タッグ再びということだが、『サイドウェイ』もアレクサンダー・ペインの作品もどれも観たことがないので、初アレクサンダー・ペイン。

舞台は1970年ボストン近郊にある名門バートン校。誰もが家族の待つ家に帰り、クリスマスと新年を過ごすなか、留まらざるを得ないものもいた。生真面目で融通が利かず、生徒からも教師仲間からも嫌われている考古学教師ポール・ハナムは、家に帰れない生徒たちの“子守り役”を任される。学校に残ったのは、勉強はできるが家族関係が複雑なアンガス・タリー。ほかの4人の男子生徒も事情があり、残ることになっていたが、途中でひとりの生徒の父が迎えに来たことで、親から許可を得たアンガス以外の生徒は、彼らと休暇を過ごすことになり、アンガスだけが取り残されることになった。彼らに食事を用意してくれるのは寮の料理長メアリー・ラム。ベトナム戦争で息子カーティスを亡くしたばかりの彼女は、息子と最後に過ごした学校で年を越そうとしていた……。

70年代の精神を示すように、冒頭のユニバーサルロゴ、FF、Miramaxのロゴが古めかしく、ノイズの演出まで入っていてなんだか懐かしい。1.66:1の狭い画角は、同じフレーム内に収まりたくない人々が窮屈そうに収まっていて、居残りたくないのに居残らざるをえない彼らの落胆や息苦しさを表しているようだった。映画が進むにつれて、それぞれに深い悲しい過去や問題を抱えていることが明らかになり、そんな状況が彼らをいっときの擬似家族のような親密な関係へと発展していく。前にぐんぐん進んでいく世界に、不安や状況によって取り残されているという心情を1970年代という時代設定のなかで政治的な話題が直接に出てこないことで遠回しに描いた「停滞」の物語であった。それでも、まったく閉鎖されているわけではなく、メアリーという黒人女性のキャラクターは、この時代よりも以前から、現在まで根深く浸透している人種や階級、そして男らしさの有害性を際立たせているように感じた。「人間の経験を“今”発見したような気になっているだろうが、実は新しいものはひとつもない。だからこそ今を知るために過去を学ばなければならない。」というポール・ハナムの言葉が、映画全体へ広がっていく。

一方で、この物語を語る上でなぜ70年代なのかという疑問も沸いた。あまりにも優しい物語であるがゆえに現代を舞台にして作るのではダメだったんだろうか〜と思ったりする。


PG12|2023|米|133分
監督:アクレサンダー・ペイン
脚本:デヴィット・ヘミングソン
撮影:アイジル・ブリルド
出演:ポール・ジアマッティ、ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ、ドミニク・セッサ

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