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[執筆後記] 短編小説 夏恋写真が、私を呼んだ。について。
今回もお付き合いいただきありがとうございました。
久しぶりに”真っ白な小説”が書きたくなって書きはじめました。
そうはいっても、書きはじめると「こうしよう」「ああしたい」と色々な展開が思い浮かんでいくもので、”真っ白”だからといって、必ずしも”真っ直ぐ”書き進められるものでもないのだな、と実感しました。
それでも、作中のキャラクターが物語を引っ張っていってくれて、書き上げることができまし
[短編小説] 夏恋写真が、私を呼んだ。
「写真家が恋に落ちるとどうなるか知ってる?」
私はいつしか先輩に言われた言葉を思い出した。
「そんなこと自分に起きるはずがない」、と思っていた。
扉を開いて剣道場の中に入ると、女子剣道部のみんなが和気あいあいとした雰囲気で雑巾掛けをしていた。口々に、足が回らない、だとか、もう限界、と言いながらも、さすがは運動部といったところで、全員が道場の端から端まで、四つん這いの姿勢で床を駆けていく。
執筆後記 [短編小説] 京終 瞳は、きっと大丈夫。について
読んでいただきありがとうございました。
「六月」をテーマにして話を考えはじめました。そうすると、雨の日の放課後に教室で一人、本を読んでいる生徒が思い浮かびました。
その人はどんな人だろう?
そこから話を広げていきました。
作中にも言及されているテーマ『本を読む意味』についてですが、人それぞれの哲学があると思われるので、あくまで作中の見解は一意見だと思っていただければ幸いです。
執筆
[短編小説] 京終 瞳は、きっと大丈夫。
「ねえ、桜井さん。何読んでるの?」
声を掛けられた瞬間、自分の記憶がフラッシュバックした。
”雨降りのくもり空”
”湿気と校舎のカビの混じった臭い”
”私に向けられた鋭い眼差し”
学生時代の苦い記憶が溢れ出しそうになるのを押しとどめ、意識を今に戻す。読んでいた本から視線を上げると、同僚の高本さんがひらひらと手を振った。
オフィスの休憩室では他部署の社員が携帯端末を見ていたり、テー
執筆後記 [短編小説] 『呪縛』を打ち破れ!について。
お付き合いいただきありがとうございました。
今回は『仮入部期間』という場面設定を決めてから書き始めました。書き進めていくうちに物語の輪郭がはっきりしていったのですが、自分の好きな『青春』要素に、最近ぼんやりと考えていたことを加えました。
『親の影響』についてです。
人と会話していると、「この人、話が通じないな」と思うことがあって、もどかしい気持ちになる時があります。
その話題の一つ
[短編小説]『呪縛』を打ち破れ!
「では、最後の質問です」と記者が言った。
「やっと終わりだ」、と苦行から解放されることに安堵した。記者というのは退屈で同じような質問を繰り返す。プロ野球選手になってから、思い知らされたことだ。
どうせ「今シーズンの抱負は?」とか「今年の目標は?」とか、そんなところだろう。端から用意していたコメントを頭の中で準備した。
しかし、目の前の記者は想定していた質問と違ったことを聞いてきた。
「江
執筆後記 『[短編小説] エイプリルフールは繰り返す』について。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。
いつもとは趣向を変えて、サスペンスを書いてみました。それだけでなく、自分の好きな青春の分野を織り交ぜながら完成させました。
昔から、誰かの”特別”になるということは、椅子取りゲームで一つの椅子を取り合うようなかんじがしていました。
自分で音楽を止めるタイミングも、椅子を競う人数も決められないって、何だか納得いかないな、と。
そんな感覚を、
[短編小説]お別れセットアップ
「私が先輩のことを殺したんです」
私の告白が、体育館の空気を揺らした。
どうせ今日で会うのが最後だ。そんな気持ちがあった。ずっと抱えていたやり場のない憤りを、私は先輩にぶつけていた。
彼女はいつもどおりの笑顔で私を見つめ返してくる。
その余裕綽々とした様に、私の怒りの火花が、散った。
我がバレーボール部の朝練は自由参加と取り決められている。そのため、強豪校でもない平凡なうちの高校で、
執筆後記 『[短編小説]素顔うらはら。』について。
読んでいただきありがとうございました。
最初は叙述トリック的な小説を作ってみたい、と思い書きはじめたのですが、途中で、自分の思惑とはちがう方向に進んでいきました。
登場人物二人の境界線が曖昧になっていくのも、そのためです。
そういうエッセンスを交えつつ、登場人物二人の幸せを願いながら書いていきました。
書き進めていく中で書きたいものがカタチを作っていくのが、面白かったです。
”登場人物が動く”な
[短編小説] 素顔うらはら。
何かの夢を見ていた。それがどういう夢か思い出せないことはいつも通りだった。
まどろみの中で、寝ぼけながら枕に顔を押し付けると、鼻をくすぐる匂いが、自分のものと違っていることに気づいた。その瞬間、焦りとともに意識が覚醒した。見渡すとやっぱり私の部屋ではなかった。
次いで頭に鈍痛が広がっていき、私は思わずベッドの中でうずくまる。視界も思考も、自分の感覚全部がぐるぐるぐるぐるして気持ち悪い。
[短編小説]秋風の中のダンス。
「おーい!おつかれー!」
私が声を掛けても、美咲(みさき)は反応することなく鏡の中の自身の姿に集中して踊り続けていた。
”ザー‥タンタタタン。シャッ。ジャッジャッ‥”
スニーカーが地面のコンクリートを鳴らす音が空間に響く。止めるところは止める。リズムに乗るところは乗る。全身で”緩急”を操る美咲のダンスからは、いつも美咲自身の音楽が鳴っているのがわかる。
私は美咲の後ろに回り込んで、姿身代
[短編小説]屋上で同期とコーヒーを飲める時間。
腕時計を確認すると時刻は午後八時を回っていた。デスク作業で凝り固まった背中が痛い。疲労感を覚えながら、俺は会社の屋上に置かれたベンチに腰掛け、缶コーヒー片手に、建物が立ち並ぶ街の夜景を脱力して眺める。視界の左には高くそびえる小綺麗なマンションがあり、そのマンションの陰になっている右手には小汚いアパートが建っている。
俺はこの光景を見るたびに、「資本主義ってえげつねえな」と辟易するし、「もう少し
「十年後の九月に答え合わせしよう」(短編)
やはり、おかしい、と思った。
制服に着替えて、家を出て、最寄駅から電車に乗って、学校までの通学路を歩く。夏休み前まで当たり前のように出来ていたことが、自分の中で違和感となっていた。私と同じ制服姿の人間が学校に向かって歩いていくのを見ていると、まるで蟻が巣に帰る様のように見えて、気分が悪い。
私って、何のために学校に行ってたんだっけ?
いつもこなしていたルーティーンに疑問が生じてしまう。疑問
「何しに社会に出てきたの?」(短編小説)
一年程前のことだ。私はバイトを辞めた。辞めた理由は非常にシンプルで、人間関係に因るトラブルだ。私は店長ともパートのおばさんとも、相容れなかった。
店長は会社の常識こそがこの世の教典だと信じて疑わない、柔軟性に欠ける人間だった。始業時間の十分前に出勤することを強要してきた割には、終業時間はガバガバで当たり前のように残業させられた。
パートのおばさんはもっと論外だ。いつも不機嫌で周りの人間にご機