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目目、耳耳

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2020年3月の記事一覧

春の在る風景(春の庭/柴崎友香)

この小みちの右側にはやはり高い松の中に二階のある木造の西洋家屋が一軒白じらと立っている筈だった。(僕の親友はこの家のことを「春のいる家」と称していた)

――芥川龍之介『歯車』(「河童・或る阿呆の一生」収録)p237より引用

なぜ、洋館ふうの建物に、人は春を見出すんだろう。

昔は、芥川龍之介『歯車』の中で。今は、柴崎友香『春の庭』の中で。人が春を見出した場所では、予感が芽吹く。

良い予感?

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僕には、君が必要なかったから(一生好きってゆったじゃん/横槍メンゴ)

僕には、パートナーがいる。「すてきな人だね」って、いってもらえるような人が。僕もそう思うし、僕はパートナーのことを、ちゃんと愛していると思う。

あの人と出会って、恋をして、結婚して。パートナーが恋人から伴侶になった今でも、時々思うことがある。僕は、「いい人」を好きになることができたんだ、って。

なんで俺を通報しないんだ
先生も同じ地獄(ところ)に居るからです

――『Stand by you』

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3/11(All those moments will be lost in time/西島大介)

放射能と幽霊。どっちも見えない。
(中略)
つまり 僕たちは
見えないものにふりまわされ続ける この先ずっと数万年の未来
いや太古の昔から

――第一話『宇宙港』より

見えないものに、ふりまわされている。9年前は(もしかしたら、今も。)放射能に。近ごろは、なんちゃらウイルスに。

中には、目に見えるものしか信じない人もいる。目に見えるもの……デマとか、かな。……ちょっと、冗談がきつかったかな。

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見上げてごらん、“真昼”の星も(天の光はすべて星/フレドリック・ブラウン)

わたしが欲しいもの――それは宇宙だった。そしてわたしはそれを手に入れるために戦った。

――本文より抜粋

「天の光はすべて星」の邦題は、以前は、「星に憑かれた男」だったらしい。

事実、この物語の主人公――マックス・アンドルーズは、自らを「星に憑かれた男」と称している。その一生を、星に捧げてきた男。でも僕は、現在の邦題の方が好きだ。

たしかに彼は、星に憑かれていたのかもしれない。でも、彼が星に

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