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雪なさと切なさと刹那さ

ゲレンデがとけるほど恋したい

2月5日。東京で約10年過ごし、これまでに経験したことのないような雪が降った。関東出身の友人たちが開口一番に「大雪だ!」と驚喜していたが、富山出身の私にとったら可愛いものだなあと思った。年々、富山では積雪量が増え、ホワイトアウトが起きているくらいだからだ。

私は、そんな日に同じ歳の友人に誘われた街コンに参加した。2週間程前から予約をしていたため、雪が降ることを想定せずの参加だった。まあ、これくらいの雪なら特に気にすることはないだろうと思っていたのもある。ゲレンデとは程遠い積雪量だったけど、不遜にもゲレンデがとけるほどの恋ができる相手が見つかればいいなと、心ばかりに願っていたのだ。

でも、なんだか刹那的に切なくなった。悪天候にそぐわず意外と人が多くて、誰とどんな会話をしたらいいんだろうと悩む時間が多かった。そして、色んな意味で感情がホワイトアウトしていた。

まあ、そのホワイトアウトには良い意味は込められていなくて、とても退屈だったということだ。最低限のスペックフィルターに引っかかる人は全くいなかったし、会話もそんなに弾まなかった。

「世間一般的な同年代のスペックってこんなものなの?」と驚いてしまった。こういう場に来るために安くないお金を払っているのに、ファッションや美容には一切気を遣っていない感じの人が男女共に多かった。60人程はいたであろうその会場で、それなりに着飾っていたのは私と友人くらいだった。

夜の仕事に長年従事してきた私たちにとったら、場違いな気がして仕方なかった。自分たちが高すぎる理想を掲げていたわけでもないのに、そう思いざるを得ない状況に刹那的に切なくなってしまったのだ。森香澄さんの「年収103万のイケメン」の理想論に、とても腑に落ちた瞬間でもあった。

どんなにお金持ちで天才でも、自分のルーツや遺伝子組み換えを行うことはできない。でも、生粋のイケメンって自分のライフゾーンを上手く組み換えできていると思う。更にイケメンを目指すこともできるし、堕落したダメ男になって歳上の女に飼ってもらうこともできる。ネオブスっていうのかな。新種のブスね。

その「ライフゾーン組み換え」のポテンシャルがない男に、どれだけ高収入や大手企業勤務のアピールをされても全く響かない。それなのに、畏怖することなく謎の自信を押し付けてくる。どんなに前のめりに来られても前頭部は後ろのめりだし、全然説得力がない。ネオイケメンには絶対なれないのに。

そして、マッチングアプリでどの検索項目のフィルターにも引っかからない男女が、街コンに参加するんだなと感じた。あまりにもファッションや美容に無頓着過ぎる人が多くて、「本当にこの人たちは結婚したいと思っているのかな?」と疑いが隠せなかった。

「え?本当だよね?だよね?」っていう刹那的な疑い。『ハリー・ポッターと賢者の石』でハリーがキングズクロス駅の9と3/4線を初めて走り抜けて行こうとする、あの瞬間の気持ち。絶対にそう。そして、走り抜けた先にある「あ、本当なんだ」っていうリアルスティックな感覚。

でも、そのリアルスティックは飛び込まないと体感し得ないし、社会経験として街コンに参加したのは良かったのかもしれない。こうやって、エッセイを書くネタにもなったしね。街コンでゲレンデがとけるほどの恋をできる相手はいなかったから、そそくさとマッチングアプリに戻ろうと思う。