よしとみあや

イタリア語を読んだり、書いたり、教えたり、訳したりしています。ここでは「訳す」ことをし…

よしとみあや

イタリア語を読んだり、書いたり、教えたり、訳したりしています。ここでは「訳す」ことをしていきたいと思います。

マガジン

  • 第14章 タミアワのラグーン

    第14章「タミアワのラグーン」をまとめました。

  • 第13章 快速帆船の降伏

    第13章「快速帆船の降伏」をまとめました。

  • 第12章 船上攻撃

    第12章「船上攻撃」をまとめました。

  • 第11章 海賊の一団

    第11章「海賊の一団」をまとめました。

  • 第10章 ユカタン半島の海岸

    第10章「ユカタン半島の海岸」をまとめました。

最近の記事

カリブの女王  第14章 タミアワのラグーン⑧

 2匹のカイマンワニは、大量に出血して消耗しているはずなのに、死に物狂いで互いを襲った。しっぽで滅多打ちにし、歯で板状の骨が下にあるうろこをかみ砕いた。水は血で真っ赤に染まり、マングローブの中にまで水しぶきが上がった。 「モコ!」突然、カルモーが叫んだ。「俺たちのはしけ舟が!」  黒い海賊もはしけ舟が危険にさらされていることに気がつき、叫びながら飛び出した。 「者ども、こっちだ!」  2匹のカイマンワニは戦いの勢いで小島に身を乗り出し、軽いはしけ舟の側面をしっぽで砕こうとして

    • カリブの女王  第14章 タミアワのラグーン⑦

      「わあっ!」カルモーが驚いて叫んだ。「何が起ころうとしているんだ? あのワニどもは俺たちを嫌っているわけじゃなさそうだな」 「そうだな、相棒」モコが答えた。  鋭い叫び声が、続けざまに2つ起こった。別のカイマンワニが2匹、しっぽで激しく水を打つと、水路の真ん中に身を躍らせた。1番小さいワニが身を引いて、島を囲むマングローブに寄り掛かった。残りの4匹はものすごい激しさで互いに飛びかかり、口を開き、恐ろしい歯を見せた。怒った雄牛のように鳴き、激しくしっぽを振って、波を泡立たせた。

      • カリブの女王  第14章 タミアワのラグーン⑥

        「カイマンワニだ」 「あぁ! こっちに来ることにしたってわけか!」 「2、3匹いますね」モコが言った。 「俺たちのことが煩わしいのかな」カルモーが言った。  霧が晴れ、夜が明け始めたため、暗さが少し和らぎ、水路で起こっていることを見られるくらいになった。6メートルはあろうかという醜いカイマンワニが一匹、マングローブの茂みから離れ、海賊たちのいる小島にじりじりと向かって来ていた。ワニの背中はざらざらしていて、ちょっとした庭みたいだった。板状の骨が下に敷きつめられたうろこは泥だら

        • カリブの女王  第14章 タミアワのラグーン⑤

           カルモーとバン・スティラーは獰猛な野獣の群れが飛びかかってくるんじゃないかと飛び起きた。モコとヤーラ、黒い海賊は枝間を見ようと顔を上げただけだった。 「一体全体、何が起こっているんだ?」バン・スティラーが叫んだ。 「簡単なことさ」モコが笑いながら答えた。「ホエザルどもが俺たちにコーラスを聴かせて楽しんでいるんだ」 「これは猿なのか?」カルモーが信じられないといった調子で言った。「相棒、俺をからかっているのか?」 「いいや、カルモー」黒い海賊が言った。 「ということは、船長、

        カリブの女王  第14章 タミアワのラグーン⑧

        マガジン

        • 第14章 タミアワのラグーン
          8本
        • 第13章 快速帆船の降伏
          8本
        • 第12章 船上攻撃
          7本
        • 第11章 海賊の一団
          13本
        • 第10章 ユカタン半島の海岸
          7本
        • 第9章 ヤーラの憎しみ
          8本

        記事

          カリブの女王  第14章 タミアワのラグーン④

           砂州とマングローブの中に水路が開いているのが見かったので、はしけ舟はその中へ入っていった。座礁しないようにゆっくりと。誰も自分たちがどこにいるか分からなかった。その砂浜に来たことがなかったからだが、ヤーラでさえそうだった。だが、陸は西の方にあるはずで、自分たちはそちらに向かっていて、遅かれ早かれ森の中にたどり着くと分かっていた。  さらに30分ほど進んだあと一行は小さな島々を目にした。島は大小の水路をいくつも作っていた。巨木がわずかな土地に育っていて、水路に暗い影を落として

          カリブの女王  第14章 タミアワのラグーン④

          カリブの女王  第14章 タミアワのラグーン③

           はしけ舟が半分ほどラグーンを横切った時のことだった。カルモーが南の半島の北端の方に目をやると、明るく光る点がまたたくのが見えた。 「おぉ!」と叫んだ。「このラグーンには人気(ひとけ)が全くないらしい。船長、見ましたか?」 「見た」もっとよく見ようと立ち上がっていた黒い海賊が答えた。「カラベル船だろうか?」 「止まっている明かりのように見えますが」とバン・スティラー。 「違う」モコが言った。他の者よりも視力が良かったのだ。「揺れている火です」 「プエブロ・ビエホに向かうカラベ

          カリブの女王  第14章 タミアワのラグーン③

          カリブの女王  第14章 タミアワのラグーン②

           カルモーとバン・スティラー、モコがオールを手にし、小回りの利くはしけ舟が動きはじめた。一方、稲妻号は再び外海へ出るために船首を巡らせた。霧がうっすらとラグーンの黒い水面を漂い、夜陰をますます濃くしていた。霧は、マングローブが腐ることで発せられる有害物質を運ぶため、とても危険だった。マングローブは熱の木と呼ばれていた。メキシコ湾の大部分、そして河口でも見られ、水中で育つため、少しずつ腐って、空気を汚染する。黒吐病、つまり黄熱病を引きおこし、最も暑い季節に多くの人の命を奪う。

          カリブの女王  第14章 タミアワのラグーン②

          カリブの女王  第14章 タミアワのラグーン①

           稲妻号は1日中、外洋を風上に向かってジグザグに進んだあと、夜の11時にラグーンの南端に、誰にも気づかれずに、たどり着いた。そして、岸から500メートルのところに停泊した。  どの方角にも明かりは見られなかった。その海域を航行する船はなく、その海岸を見張っている監視所はないと期待して良さそうだった。  黒い海賊は辺りをよく見回してから、デッキへ降りた。デッキでは、水夫たちがはしけ舟を水面に下ろしているところだった。はしけ舟には、必需品を入れた木箱が積みこまれている。カルモーと

          カリブの女王  第14章 タミアワのラグーン①

          カリブの女王  第13章 快速帆船の降伏⑧

          「だが、そんなことが起こるのはここだけではない、モーガン。ヨーロッパの多くの海岸でも地震が起こったわけでもなく、火山から遠く離れているにもかかわらず、海面が大きく変わることがある。その上昇や下降が今すぐに起こると言っているわけではない。むしろ、ゆっくりで気がつくのに何世紀もかかる。例えば、わたしのイタリアでは、数十年の間に明らかな起伏が見られた。特にシチリアとカラブリアでは海岸が上がる傾向にある。一方、ヴェネトではつねに低くなっている」 「しかし、その起伏は非常にゆっくりのは

          カリブの女王  第13章 快速帆船の降伏⑧

          カリブの女王  第13章 快速帆船の降伏⑦

          「ラグーンはベラクルスから離れているのか?」 「それほど急がなくても、歩いて4、5日で着くでしょう」 「それはいい。どうせ船団は10日ほどしないとベラクルスにはやって来ないだろうし」 「それでは?」 「ラグーンに行こう」黒い海賊がしばらくして言った。「ベラクルスに入るのはそれほど難しくないだろう」  この会話から4時間後、ベラクルスから遠く離れたところを通ろうと航路を北にとっていた稲妻号は、メキシコの海岸に近づくこうと西に向きを変えた。  黒い海賊は一瞬たりとも船橋から離れな

          カリブの女王  第13章 快速帆船の降伏⑦

          カリブの女王  第13章 快速帆船の降伏⑥

           突然、既に水でいっぱいだった船首が沈んだ。船尾はもう竜骨を見せていた。巨大な船の残骸はまっすぐ、ほぼ垂直に沈んで行った。巻き上げ装置のダビット、それからメインマストのまだ燃えている根元、そして船全体が、最後の蒸気と火花を上げながら姿を消した。大きな渦に似た丸い水の壁が海面にでき、遠くへと広がって消えた。  すべてが終わった。たくましい戦闘用快速帆船がまず銃弾で使い物にならなくなり、それから炎で半壊になり、最後に爆発で全壊してしまった。そして、メキシコ湾の澄んだ水の中を恐ろし

          カリブの女王  第13章 快速帆船の降伏⑥

          カリブの女王  第13章 快速帆船の降伏⑤

           黒い海賊がふり向くと、原住民の娘がいた。 「お前か、ヤーラ」 「はい。あの船の最期を見ようと上がってきました。あの船は少し前までわたしの父を殺した者たちのものだった」 「なんと激しい憎しみがお前の目に宿っていることか!」黒い海賊は笑みを浮かべながら言った。「お前の憎しみはわたしのものと同じだな」 「ですが、あなたはこのスペイン人たちを憎んではいらっしゃらない」 「ああそうだ、ヤーラ」 「わたしが打ち負かしたのなら、全員を殺すのに」恐ろしい口調で娘が言った。 「やつらにはあま

          カリブの女王  第13章 快速帆船の降伏⑤

          カリブの女王  第13章 快速帆船の降伏④

           そんな混乱の中で50人ほどのスペイン人が口を閉ざし、青ざめた顔で、ボロボロになった服のまま海賊たちを待ち受けていた。残りの者たちは雨あられと降りそそいだ恐ろしいぶどう弾にやられて倒れていた。  モーガンはスペイン人たちから武器を受け取ると、怪我人の面倒を見るよう手下たちに言いつけ、残りの者たちを稲妻号の船上へ連れて行った。そして、船倉に閉じ込めると、入り口に見張りを立てた。  船を検めると、すぐに見込みがないことが分かった。マストの檣座は壊され、マストは既に炭と化していた。

          カリブの女王  第13章 快速帆船の降伏④

          カリブの女王  第13章 快速帆船の降伏③

           ヴェンティミリアの領主は差し出された武器を押し返すと、きっぱりと言った。 「剣をお納めください。もっと良い機会があるでしょう、中尉殿。あなたは実に勇ましい!」 「ありがとございます、騎士殿」スペイン人は答えた。「黒い海賊ならこのようなお心遣いをしてくださると思っていました」 「わたしは紳士ですよ」 「存じています、騎士殿。これからわたしたちをどうするおつもりですか?」 「わたしたちの遠征が終わるまで捕虜としてわたしの船にお迎えします。その後、メキシコの海岸のどこかに上陸して

          カリブの女王  第13章 快速帆船の降伏③

          カリブの女王  第13章 快速帆船の降伏②

           煙が薄くなるのを待たずに水夫たちは通路に、特に大砲が火を放っている方に、ぶどう弾を投げ入れた。  最初、スペイン人たちは通路に立ち込める煙のせいで昇降口が開いたことに気がついていなかった。しかし、ぶどう弾が炸裂するのを耳にし、仲間の多くが砲弾の破片を浴びて床に倒れるのを目にして、大慌てで武器を放り出し、手当たり次第に大砲を撃って走った。  その急襲のせいでスペイン人部隊は大パニックに陥っていた。殺戮を逃れた数人の将校の叫びや、親方や准尉のののしりにもかかわらず、最も勇猛果敢

          カリブの女王  第13章 快速帆船の降伏②

          カリブの女王  第13章 快速帆船の降伏①

          数分後、海賊たちの中から選ばれた狙撃の上手い40名が2列になって、通路の端に積み上げられた家具や木箱に身を隠しながら、船室、共用部屋へと静かに降りて行った。お分かりのように、黒い海賊はこれら40名の男たちを犠牲にして、新たな、特に倍以上いる敵を攻撃するつもりは毛頭なかった。攻撃はただのデモンストレーションで、スペイン人たちの注意を喚起するためだった。敵を屈服させる襲撃は、メインハッチから行われるはずだった。メインハッチの周りには既に残りのすべての海賊が集まっていた。 「大騒ぎ

          カリブの女王  第13章 快速帆船の降伏①