見出し画像

カリブの女王  第14章 タミアワのラグーン①

 稲妻号は1日中、外洋を風上に向かってジグザグに進んだあと、夜の11時にラグーンの南端に、誰にも気づかれずに、たどり着いた。そして、岸から500メートルのところに停泊した。
 どの方角にも明かりは見られなかった。その海域を航行する船はなく、その海岸を見張っている監視所はないと期待して良さそうだった。
 黒い海賊は辺りをよく見回してから、デッキへ降りた。デッキでは、水夫たちがはしけ舟を水面に下ろしているところだった。はしけ舟には、必需品を入れた木箱が積みこまれている。カルモーとモコ、バン・スティラーはもうデッキにいた。水夫の服を脱いで、房飾りのついた革のズボンを履き、飾り結びで縁取ったカラフルなゆったりしたマントを羽織っていた。腰には幅広の帯を巻いて、舶刀と拳銃を差していた。頭には天井が高くつばの広い麦わら帽子。そのため、顔がほとんど隠れてしまっていた。
黒い海賊もいつもの黒い服を脱ぎ、手下たちと同じような格好をした。だが、剣は携えたままだ。兄弟を殺した男をどこかの壁に突き刺すつもりだったのだ。
「準備はいいか?」黒い海賊がモーガンに尋ねた。モーガンは既にはしけ舟を水面に下ろさせていた。
「はい、騎士殿」副長が答えた。
「ヤーラは?」
「ここにいます」原住民の娘がそばにやってきて答えた。
 仲間と同じようにヤーラもセラーペと呼ばれる房飾りのついた大きなマントに身を包み、リボンを周囲に施したつば広の帽子の中に美しい髪を隠していた。
「最後のご指示を」モーガンが言った。
「すぐに船団に合流して、ベラクルスに向かってくれ」
「ご存知のように、グラモンは町の南方から上陸することにしました」
「そうだったな、2リーグのところだった。可能ならそこで待つつもりだ」
「ということは、上陸地をご存知なのですね?」
 黒い海賊はしばらくの間ラグーンをぼんやりと見つめたまま黙っていた。それから、階段を駆け降りると、そっけなく言った。
「さらばだ」
 原住民の娘とともにはしけ舟の艫(とも)に座ると、手下たちに稲妻号から離れるよう合図した。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?