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カリブの女王  第13章 快速帆船の降伏⑤

 黒い海賊がふり向くと、原住民の娘がいた。
「お前か、ヤーラ」
「はい。あの船の最期を見ようと上がってきました。あの船は少し前までわたしの父を殺した者たちのものだった」
「なんと激しい憎しみがお前の目に宿っていることか!」黒い海賊は笑みを浮かべながら言った。「お前の憎しみはわたしのものと同じだな」
「ですが、あなたはこのスペイン人たちを憎んではいらっしゃらない」
「ああそうだ、ヤーラ」
「わたしが打ち負かしたのなら、全員を殺すのに」恐ろしい口調で娘が言った。
「やつらにはあまりにも多くの敵がいるのだ、ヤーラ」黒い海賊が答えた。「アメリカで残虐行為を行った初期の支配者たちは大部分が仇討ちにあった」
「ですが、わたしの部族を皆殺しにした男はまだ生きています」
「その男は死んだも同然だ」黒い海賊は声を低くして言った。「運命がやつの罪を既に裁いた」
 黒い海賊は船壁にもたれて快速帆船を見ていた。船は枯れ木のように燃えさかっていた。火は大きくなり、巨大なカーテンのようにフォアマストの最上帆にまで達していた。今ではすべてを包み、船首から船尾まで激しく動く火の海だった。
 真っ黒な煙が巨大な傘のように船上を漂い、煙の縁から無数の火花が降っていた。その火花を風があちらこちらに吹きとばしていた。
 突如、低い爆発音が外洋に響き渡った。燃えている木材とスクラップの火花が渦を巻いて船上に立ち上がり、鋭い音を立てて、離れた海に落ちて行った。
 海賊たちの物色から逃れたぶどう弾が船倉の奥で爆発したのに違いなかった。
 爆発は当然、非常に激しく、既に炭と化していた船の舷側を突き破り、水が裂け目から入って来た。
「終わった」黒い海賊がヤーラの方を向いて言った。
 快速帆船は見る間にゆらゆらと沈んで行った。水と火は木材の周りで競り合い、海を沸騰させた。蒸気が上がって鋭い音を立てた。船はその間も沈み続け、船首をどんどん傾けていた。一方、船尾は上がっていた。船がますます大きく揺れる中、船楼の鐘が陰鬱に響き渡った。まるで偉大な船の間近に迫った終わりを告げるかのように。
「スペイン海軍の没落を知らせる鐘だな」黒い海賊がつぶやいた。

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