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カリブの女王  第14章 タミアワのラグーン⑤

 カルモーとバン・スティラーは獰猛な野獣の群れが飛びかかってくるんじゃないかと飛び起きた。モコとヤーラ、黒い海賊は枝間を見ようと顔を上げただけだった。
「一体全体、何が起こっているんだ?」バン・スティラーが叫んだ。
「簡単なことさ」モコが笑いながら答えた。「ホエザルどもが俺たちにコーラスを聴かせて楽しんでいるんだ」
「これは猿なのか?」カルモーが信じられないといった調子で言った。「相棒、俺をからかっているのか?」
「いいや、カルモー」黒い海賊が言った。
「ということは、船長、このぐずぐず泣いているのは誰なんです?」
 頭の上、葉が茂った枝間で、子どものものと思える悲しそうな叫び声が聞こえてきた。
「これも猿だ、カルモー」黒い海賊が言った。「枝の間に子どもがいると言われそうだが」
「そう。でも、そうじゃなくて猿なんだ」
「船長、頭がおかしくなりそうです。頭がガンガンする」
 カルモーは嘘を吐いていなかった。赤猿たちの叫びと鳴き声は強くなり、耳の聞こえない人さえいらいらさせるくらいになった。
「猿どもが大勢集まっているに違いない」バン・スティラーが言った。
「違うよ、相棒」モコが言った。「あのホエザルどもは7匹か8匹ほどしかいない」
「ということは、やつらの喉は鉛で覆われているに違いない」
「もっといいものを持ってる」
「どういうことだ?」
「声を100倍にする肉厚の喉、一種の太鼓だ」黒い海賊が言った。
「その通りです、船長」モコが答えた。
「恐ろしい歌うたいめ」カルモーが叫んだ。「もっといい機会に声を取っておけばいいものを」
「黙らせたいかい?」モコがきいた。
「ぜひ」
「銃をぶっ放すんだ。そうすりゃ猿どもはいなくなる。一匹殺せたら、すばらしい朝食ができる」
「げーっ」カルモーがげんなりした様子で言った。「猿を食うだって? 俺様を誰だと思っているんだ、相棒?」
「これが美味いんだ、相棒。原住民と黒人はみんな食べる」
「猿は放っておくんだ。銃弾は別の動物に取っておけ」だしぬけに立ち上がっていた黒い海賊が言った。
「どうしたんです、船長?」カルモーが尋ねた。

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