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カリブの女王  第13章 快速帆船の降伏③

 ヴェンティミリアの領主は差し出された武器を押し返すと、きっぱりと言った。
「剣をお納めください。もっと良い機会があるでしょう、中尉殿。あなたは実に勇ましい!」
「ありがとございます、騎士殿」スペイン人は答えた。「黒い海賊ならこのようなお心遣いをしてくださると思っていました」
「わたしは紳士ですよ」
「存じています、騎士殿。これからわたしたちをどうするおつもりですか?」
「わたしたちの遠征が終わるまで捕虜としてわたしの船にお迎えします。その後、メキシコの海岸のどこかに上陸してもらいます。身代金はいりません」
「わたしたちのメキシコの町に遠征しようとしているのですか?」胸を痛めながら将校は驚き尋ねた。
「その質問にはお答えできませんな」と黒い海賊。「わたしだけの秘密ではないのでね」
 それから将校の腕を取ると船尾へと連れて行き、抑えた調子で尋ねた。
「ヴァン・グルド公爵をご存知ですね?」
「えぇ、騎士殿」
「やつはベラクルスにいるのですか?」
 スペイン人将校は問いに答えず、じっと黒い海賊の顔を見つめた。
「わたしはあなたの命を救いましたよ。戦いの掟からあなたの部下と船もろとも海に沈めることだってできたのに。紳士にささやかなお返しをしてくださっても良いのではありませんか」
「分かりました。その通り、公爵はベラクルスにいます」スペイン人はしばし躊躇ったのちに答えた。
「ありがとう」黒い海賊は答えた。「寛大でいられて嬉しい限りです」
 将校は昇降口に戻ると大声で言った。
「武器を置け。ヴェンティミリアの騎士が全員の命を保証してくれる!」
 モーガンが率いる海賊の2分隊がすぐに通路に入り、武器を回収した。
 何と恐ろしい光景が快速帆船の内部で見られたことか! 残骸が至るところで煙を上げていた。テーブルは壊され、支柱は砕け、大砲はひっくり返されていた。男たちはぶどう弾の破片に肉をえぐられたり、四肢や頭が欠けたりしていた。血と銃弾の破片がそこら中に見られた。何人かの怪我人が切断され血が流れる腕を動かし、痛ましいうめき声を上げながら通路をはうようにして進んでいた。

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