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カリブの女王  第14章 タミアワのラグーン④

 砂州とマングローブの中に水路が開いているのが見かったので、はしけ舟はその中へ入っていった。座礁しないようにゆっくりと。誰も自分たちがどこにいるか分からなかった。その砂浜に来たことがなかったからだが、ヤーラでさえそうだった。だが、陸は西の方にあるはずで、自分たちはそちらに向かっていて、遅かれ早かれ森の中にたどり着くと分かっていた。
 さらに30分ほど進んだあと一行は小さな島々を目にした。島は大小の水路をいくつも作っていた。巨木がわずかな土地に育っていて、水路に暗い影を落としていた。
「どうしましょうか、船長?」カルモーが訪ねた。
「どこかの島に上陸して、夜明けを待とう」黒い海賊が答えた。「この暗さじゃ進めない」
 一番近い島にはしけ舟を向けた。島は大樹に覆われていた。海賊たちは少しばかり足を伸ばそうと上陸した。
 そこでは闇が深く、何も見分けることができなかった。霧が水路から立ち上がり、ゆっくりと広がっていた。死をもたらす熱と瘴気に満ちた霧だった。
 海賊たちは夜露を避けるためにマントでしっかり体を覆うと、一本の大木の根元に体を横たえた。けれども、気持ちは落ち着かず、脇には銃を置いていた。実際、すぐあとに、鋭い叫び声が近くでこだまするのが聞こえた。叫び声は間もなく恐ろしいうめき声になった。
 少し離れたところで同じような叫び声がまた上がり、それから三つ目、四つ目と続いた。
「これはカイマンワニだな」黒い海賊がおののきながら言った。
 強烈な麝香(じゃこう)の匂いが川から漂ってきた。川にいやらしいリザードマンが大量にいる証だった。
 最初の叫び声のあとに短い静寂が訪れたが、すぐに鋭い叫びが水の中ではなく頭上の木々の枝の間で突如起こった。ぞっとするような、耳をつんざくような合唱で、うめき声、うなり声、金属性の器具から発せられたような鋭い音、聞いたことがないような激しい叫び声だった。

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