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カリブの女王  第14章 タミアワのラグーン③

 はしけ舟が半分ほどラグーンを横切った時のことだった。カルモーが南の半島の北端の方に目をやると、明るく光る点がまたたくのが見えた。
「おぉ!」と叫んだ。「このラグーンには人気(ひとけ)が全くないらしい。船長、見ましたか?」
「見た」もっとよく見ようと立ち上がっていた黒い海賊が答えた。「カラベル船だろうか?」
「止まっている明かりのように見えますが」とバン・スティラー。
「違う」モコが言った。他の者よりも視力が良かったのだ。「揺れている火です」
「プエブロ・ビエホに向かうカラベル船だろう」黒い海賊がつぶやいた。「幸い、闇夜だから見つからずに済むだろう」
 その通り、その光る点は、短いタックで北へ遠ざかっていた。はしけ舟は小さな水音を立てながら水面を滑るように進んでいた。3人の海賊たちはもう2時間以上も全力で舟を漕いでいたのに、全く疲れを知らないようだった。小さな舟の周りはずっと完全な静けさに包まれていた。その水域では生き物がいないかのようだった。ただ頭上ではときどき夜行性の鳥、はたまたヴァンパイパか彷徨(さまよ)う幽霊、または眠っている人や動物を襲って血を吸うコウモリの叫び声がしていた。
 深夜2時ごろ船首にいたカルモーは水が少なくなってきていることに気がついた。
「間もなく浜です」黒い海賊の方を見て言った。
「浜が見える気がする」黒い海賊が立ち上がりながら答えた。「前方に暗い塊が姿を見せている。森に違いない」
 やがて、はしけ舟は水生植物群と砂州のあいだを進んだ。マングローブが至る所に茂っていた。四方八方にねじれた枝を伸ばし、伝染性の瘴気を放っていた。
「沼に入った」黒い海賊が言った。
「そのようです。メキシコの海岸はマングローブばかりだ」カルモーが答えた。

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