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カリブの女王  第13章 快速帆船の降伏⑥

 突然、既に水でいっぱいだった船首が沈んだ。船尾はもう竜骨を見せていた。巨大な船の残骸はまっすぐ、ほぼ垂直に沈んで行った。巻き上げ装置のダビット、それからメインマストのまだ燃えている根元、そして船全体が、最後の蒸気と火花を上げながら姿を消した。大きな渦に似た丸い水の壁が海面にでき、遠くへと広がって消えた。
 すべてが終わった。たくましい戦闘用快速帆船がまず銃弾で使い物にならなくなり、それから炎で半壊になり、最後に爆発で全壊してしまった。そして、メキシコ湾の澄んだ水の中を恐ろしい深淵の底へと沈んで行った。
 黒い海賊はヤーラの方を向いた。ヤーラはまだ沈んでいく船を渦の中に見ようとしているようだった。
「何もかも恐ろしくないか?」ヤーラに尋ねた。
「恐ろしいです」原住民の娘が答えた。「でも、わたしはまだ復讐を果たしていません」
「まもなくできる」黒い海賊は答え、船橋にかかる階段へと向かった。そこには既にモーガンがいた。
 副長は座り心地のいい椅子に座っていたが、黒い海賊を見るなり立ち上がり、メキシコ湾の海図を見せた。
「どちらに上陸するおつもりですか?」と尋ねた。「今夜にはメキシコの海岸が見られるでしょう」
「ベラクルスを知っているか?」
「はい、騎士殿」
「巡行船はいるだろうか?」
「奇襲からハラパを守るためにトゥスパンまで海岸はずっと見張られていると聞いています」
「それでは上陸は難しそうだな」
「不可能と言えるでしょう。上陸するなり捕まえられるかもしれません」
「どうしたらいいだろうか?」
「ベラクルスから遠く離れた、誰もいないところを選んで上陸し、ラバ引きか猟師の格好をして少しずつ移動します」
「見つかる危険を冒さずに上陸できるところを知っているか?」
「タンピコの南、タミアワの大きなラグーンに上陸してはどうでしょう。そこには監視所がありません。この時期には黄熱病がはびこっているので」

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