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カリブの女王  第14章 タミアワのラグーン⑧

 2匹のカイマンワニは、大量に出血して消耗しているはずなのに、死に物狂いで互いを襲った。しっぽで滅多打ちにし、歯で板状の骨が下にあるうろこをかみ砕いた。水は血で真っ赤に染まり、マングローブの中にまで水しぶきが上がった。
「モコ!」突然、カルモーが叫んだ。「俺たちのはしけ舟が!」
 黒い海賊もはしけ舟が危険にさらされていることに気がつき、叫びながら飛び出した。
「者ども、こっちだ!」
 2匹のカイマンワニは戦いの勢いで小島に身を乗り出し、軽いはしけ舟の側面をしっぽで砕こうとしていた。
 モコはマングローブの中に躍り出た。そのあとをカルモーとバン・スティラーが続く。
 岸に向かって急ごうとした時だった。乾いた音が響いた。しっぽの一撃を受けて、はしけ舟は壊れ、水路にひっくり返り、水の中へ勢いよく沈んでいった。
「なんてこった!」と、バン・スティラー。
「あぁ、くそっ!」と、モコ。
 モコは危険を顧みず、2匹のカイマンワニに躍りかかった。ワニは怒りの余り人間の存在に気がついていなかった。がっしりした体格のモコは、枝を振り上げると一番近くにいたワニに打ちおろした。ワニの脊椎を折ってしまうほどの勢いだった。
 もう1匹がその音を聞いて振り返った。それはあごがないワニだった。怒りで目がくらみ、逃げる代わりに一飛びで岸に上がると、モコにぶつかって行った。モコはかろうじて身をかわす。
 黒い海賊は、そばにいたヤーラを心配して、剣を手に前に飛び出した。稲妻のような速さでワニの行く手に割りこみ、さっと身をかがめるとワニの喉に剣を突きさした。
 その新たな傷は、ワニを押しとどめるのに十分ではなかったようで、モコが加勢することになった。勇敢なアフリカ人のモコは、水と泥を同時にはね上げたしっぽを避けて、黒い海賊に向かって叫びながら、木の枝をふりかぶった。
「下がってください、船長」
 木が倒れる時のような大きな音がした。下に骨があるワニのうろこはその恐ろしい一撃でやられてしまった。
 ワニは、太い枝で殴られて半死の状態で、ほんのしばらくぼうっとしていた。それから残る力を振り絞って岸から水中に転がり落ちると、血でできた波紋の中、姿を消した。
                          (第14章―終―)

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