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俳句、自選自解

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自分の創作物を見ていただくのは「ナンカチガウ」と思いつつ、おだてられて始めてしまいました。
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俳句、自選自解010(春泥)

俳句、自選自解010(春泥)

春泥を来て春泥を帰らざるつねたまじめ

小賢しく近道をしようと思ったばかりに、ぬかるみを歩くはめになった。

ぬった、ぬった、と足裏から感じる春。これが革靴ならば目も当てられない。今から来た道を戻っては、電車に間に合うまい。

アスファルト舗装された歩道を軽やかに帰ろう。私は揺れる電車の中でそう決心していた。

季語「春泥」

雨が降り、気温は上がり切らずにいます。おかげで、春の泥土はやわらかく、

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俳句、自選自解009(水を飲む)

俳句、自選自解009(水を飲む)

大寒やひと口だけの水を飲むつねたまじめ

バイトのために朝早くに起きて、
古い暖房器具のつまみをひねる。
暖かくなるまで時間がかかる年代物だ。

ドテラ姿の私は背を丸めて台所へ行き、
冷たい水道水をひと口だけ飲んだ。

カレンダーを見ると数日前の日付に、
祖母の手で「まじめ、成人式」とある。
今日は「大寒」らしい。

後日、俳句を見せました。
祖母は、「そやなぁ、歯にしみるし、寒い時期に冷たい水は

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俳句、自選自解008(モズノニエ)

俳句、自選自解008(モズノニエ)

鉛筆の先尖るべし鵙の贄つねたまじめ

茄子の支柱にしていた小竹が、畑に残されたままである。片付けに向かうと、晩秋のバッタが早贄にしてあった。

尖らせておかねばならない。
鉛筆も、感受性も。

金柑の木で、モズが高鳴きしている。

短歌1002(本の虫探し)

短歌1002(本の虫探し)

葛の葉に虫は鳴きけり
言の葉のいづくに本の虫や住むらむつねたまじめ

葛の葉に秋の虫が鳴いていた。
その葛の葉物語の別れではないが、言葉の世界のどこに、本の虫さんは住んでいるのだろうか。

のんびりやろうね、本の虫さん。

俳句、自選自解007(考える人)

俳句、自選自解007(考える人)

考える人の像うつ木の実かなつねたまじめ

中学には、ロダンの考える人があった。あの、ブロンズの質感で、その悩みが一筋縄ではないように見える。顔もほりが深く、濃ゆい。

コツンっ

彼の頭にドングリが落ちた。
アイデアとは、いつも外部からの刺激なのだと理解した。

俳句、自選自解006(空虚)

俳句、自選自解006(空虚)

空虚とは空腹のこと曼珠沙華つねたまじめ

二十そこそこの私は、いつも空虚だった。
頭も、心も、足りないものばかりだった。それでも、お腹がいっぱいになれば、何かが満たされる。

この句ははじめ、

空虚とは空腹のこと食の秋

という俳句だった。
俳誌に投句すると、泉田秋硯先生は下五を「曼珠沙華」と添削し、載せてくださった。

生きることへの虚しさ、食べることの悲しさと残酷さにとらわれていた私の心は、

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俳句、自選自解005(十一面観音)

俳句、自選自解005(十一面観音)

十一面観音菩薩稲光つねたまじめ

雲行きがあやしいな、とは思っていたが、ついに夕立に降り籠められた。本尊、十一面観音菩薩がおさめられた建物内は暗く、ざーという雨音だけが響く。

ぴかっ!

突然、眼前に浮かび上がる巨大な立像。
その残像は、ただ見るよりもずっと鮮烈に、私の網膜に焼きついた。

俳句、自選自解004(斬首)

俳句、自選自解004(斬首)

向日葵の後の始末の斬首かなつねたまじめ

校舎でひまわりを育てるのが好きだ。結婚前は休みの日にも水やりをしにいくなど、実にまめまめしく世話をした。日に日に成長するのが楽しく、子どもたちより背の高いひまわりに育つと、教室から出てみんなで写真を撮る。

盛りを過ぎると、ひまわりは急速に力をなくし頭を垂れる。育てた者として、無言で後始末を行うと、季節はすでに秋であった。

なお、ひまわりによくつく害虫は

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俳句、自選自解003(黒葡萄)

俳句、自選自解003(黒葡萄)

黒葡萄皿と一点のみ接すつねたまじめ

正岡子規が、そして高浜虚子が重要視した客観写生を、中学生の私は「見たままを言葉にするって、当たり前やん」と思っていた。

見たままを言葉に。

部活から帰ると、うちには似つかわしくもない巨峰が、白い大皿に無造作に載っている。人からもらったのだな。一粒一粒が濃い紫で、果粉が洗ったあとの水滴を弾いている。重量感がある。みずみずしくておいしそうだ。香りはしない。口に

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俳句、自選自解001(水無滝)

俳句、自選自解001(水無滝)

虹かめ花さるさんとコメントをやりとりしていて、俳句をいくつか自選自解しようと思い切りました。とりあえず、一つやってみます。

水無しの滝や八方槍氷柱

(みずなしのたきや はっぽうやりつらら)

冬のある日、最も古い付き合いの賢者と六甲の地図を開き、どのルートで山頂を目指すかとぐだぐだ話しておりました。すると、

「水無滝」

水がないのに滝とは、これいかに。
いぬというのに、ここにいるが如し。

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俳句、自選自解002(ワシコフ俳句)

俳句、自選自解002(ワシコフ俳句)

まっとうに、正岡子規から水原秋桜子の流れで俳句を学んでいた私は、高校生のある日、ズギャンと雷に打たれた。引用の、西東三鬼の俳句である。

露人て!ワシコフて!誰やねん!

衝撃が強いと、すぐに真似をしたくなるし、うずうずと何かに書きつけたい欲にかられる。すぐさま「ワシコフ俳句」なる連作をノートに書いた。

書きながら、これがもう、ワシコフのイメージがどんどん膨らむのである。ワシコフの腕、ワシコフの

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