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ブラック企業を退職したら、きみは勝ち組!!|『クラッシュ』(8)

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テーマ発表!!


 前回に引き続き、映画「クラッシュ」に登場する「ファハドの物語」をベースに新しい物語を妄想します。


※【参考】「クラッシュ」の作品概要などはこちら


妄想開始!


嘉村 それではまいりましょう!

三葉 はい。「クラッシュ」は、人種差別をテーマにした群像劇です。

嘉村 ええ。

三葉 そして、「群像劇」というからには作中に複数の物語が登場するのですが……その内の1つが「ファハドというキャラにまつわる物語」。今回は、この「ファハドの物語」のストーリー構造を利用して、新しい物語をアレコレ考えてみましょう!

嘉村 承知しました。

三葉 まずは、ファハドの物語」の概要を振り返ります。


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三葉 ……ですね(より詳しくは前回の記事で)。

嘉村 ふむふむ。


案①


三葉 さて、以上を踏まえて「『ファハドの物語』をリスペクトした物語案①」ですが……。

嘉村 はい。

三葉 ズバリ!「『ブラック企業に対する復讐に失敗するが、じつは失敗してよかったのかもね』という男性の物語」です。


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嘉村 ブラック企業!

三葉 まずは、「ファハドの物語」と比較してみましょう。


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三葉 ストーリーをご紹介しましょう。主人公は男性で、そうですね。20代中頃ということにしましょう。彼は会社員です。そして彼の勤める会社は……ブラック企業だった!

嘉村 ほぉ。

三葉 とにかく仕事量が多い。毎日残業しても終わらない。休日出勤も珍しくない。そのわりに給与は低い。また、上司によるパワハラめいた言動が常態化している。

嘉村 ふむ。

三葉 無論、「転職すべきかも」と思うこともあります。しかし、いつも仕事の締め切りに追われている。じっくり転職について考える暇がありません。加えて、「自分が辞めると、残った者の負担がさらに増える」と思うと、転職しようという気は失せてしまう。

嘉村 ふーむ……。

三葉 しかし、そんな彼にも心のオアシスがありました。すなわち、同期のAさんです。隣の部署で、彼女も激務にめげず頑張っている。その姿を見るだけで力が湧いてくるのでした。

嘉村 なるほど。

三葉 ところがそんなある日……Aさんが会社を休む。風邪でも引いたのでしょうか?翌日も出社しない。さらにその翌日も姿を見せない。社内で噂が立つ「どうやらメンタルを壊したようだ」。

嘉村 ほぉ……。

三葉 主人公は気になって仕方がない。LINEのひとつも送ってみようかと思う。しかしメンタルをやられたと聞くと、どう連絡していいのかわからない。彼は、人事部所属の同期(以下、Bくん)を呼び出し、真偽を問う。Bくんの口は堅かった「個人情報を漏らせるわけないだろ。それは、人事マンとして最大のタブーだぜ」。言いたいことはわかる。だが、いまは非常事態だ。主人公は粘りに粘り……やがてBくんが口を割る。噂は本当だった。Aさんはメンタルを壊し、休んでいたのだ。

嘉村 それは心配ですね。

三葉 主人公は問う「原因は?一体どうして!」。Bくんは皮肉っぽい笑みを浮かべて、「言うまでもないだろ。過労、睡眠不足、上司との関係……」。主人公は歯ぎしりする。Bくんの言う通りだ。聞くまでもなかった。主人公は改めて問います「彼女はこの先どうなるんだ?」。Bくん曰く、「とりあえず1か月ほど休職することが決まっている。その間に通院しつつ、回復を待つそうだ」「……」「彼女と面会した産業医さんによると、そこまで重症ではないという。休養を取れば復帰できるだろうさ」「よかった……」。Bくんは主人公の肩を叩いて、「心配なのはわかるが、お前はまず自分の体調を気づかえよ。いつも顔色が悪いぞ」。

嘉村 Bくんってのは、いいヤツですね。

三葉 ええ、友情に厚い男なのです。

嘉村 ふむ。

三葉 Bくんは、「1か月休職すれば復帰するだろうさ」と言いました。ところが……1か月経っても、Aさんは戻ってこなかった。2か月経っても復帰することはなく、そして3か月経ったある日。Aさんの後輩が、Aさんの私物を段ボールに詰め始めた。主人公は呆気に取られる。一体何があったんだ……?彼は、再びBくんを呼び出します。Bくんは、いつになく覇気がない。彼は主人公と目を合わせることなく、俯いたまま、「彼女は退職したよ」と漏らす。主人公は愕然とする。

嘉村 あー……ダメでしたか。

三葉 Bくんによると……結局のところ、Aさんの具合がよくなることはなかった。それどころか、休職中も日増しに悪化していったそうだ。なかなか寝つけず、一度眠ってもすぐに悪夢を見て目が覚めてしまう。食欲は減退。「Aさんは真面目だからな。『私は同僚に迷惑をかけている』『私は社会人失格だ』『私は役立たずのクズだ』なんて考えて、その罪悪感や焦りに苦しんでいたのではないかな」というのがBくんの見立てです。

嘉村 ふーむ……。

三葉 主人公は何も考えられない。頭が真っ白だ。「……それで……いまAさんはどうしているんだ?」「オレも詳しくは知らないが、入院したそうだよ。専門施設で本格的な治療を受けるそうだ」。

嘉村 なるほど。

三葉 主人公には、Bくんの言う「本格的な治療」というのが何を指しているのか見当もつきません。薬を飲むのだろうか?カウンセリングやセラピーだろうか?よくわからぬが……彼は猛烈な怒りを覚える。あの美しく、優しく、かわいらしいAさんが入院……クソ!

嘉村 ふむふむ。

三葉 主人公は、Bくんに尋ねる「で、会社はどういう対応を取るんだ?」。Bくんは困惑顔で「……対応?」。「ああ。Aさんの上司の処遇とか」「……」「あとは、ホラ。効果があるのか知らないが、残業を禁止するとか、産業医面談を増やすとかあるだろ」「……」「っていうか、そもそもなぜ退職なんだ?彼女が体調を崩したのは会社のせいなんだから、復帰するまで休職扱いではダメだったのか?」。Bくんは黙ったままです。

嘉村 ほぉ。

三葉 主人公がせっつく「……おい、何とか言えよ」。Bくんは苛立った口調で「何もない」。「何もない……?」「ああ。お前が期待しているようなことは何もないよ。Aさんの上司が処分されることはない。会社のやり方も何も変わらない」「変わらない……」「現実を見ろよ。入社3年目の若手社員が退職した。たったそれだけのことだ」。Bくんは、その言葉とは裏腹に辛そう表情を浮かべている。彼だって辛いのだ。

嘉村 ふーむ……。

三葉 主人公は口をつぐむ。しかし、主人公の怒りが消えたわけではありません。むしろ、怒りは増す。何に対して怒っているのか、彼にもよくわからない。しかし、このまま現実を受け入れてはいけないということはわかっている。彼は、会社の役員に直訴する。労働環境を改善してほしい。そして、Aさんが希望すればいつでも復帰できるようにしてほしい。

嘉村 なるほど。

三葉 しかし……ダメ!役員はまともに取り合ってくれない。Bくんの言う通り、「入社3年目の若手社員が退職した。たったそれだけのこと」と考えているようだ。主人公は、弁護士に相談する。労基(労働基準監督署)に通報する。しかし、やはりダメ。会社は、社員の勤怠簿をいじるなど偽装工作を行い、一切ボロを出さない。

嘉村 ひどい……。

三葉 やがて、主人公は会社から疑いの目を向けられます「労基にチクったのはあいつでは……?」。そして、主人公に対する嫌がらせが始まる。主人公の怒りは頂点に達する。彼は、上司の机に退職願を叩きつける。

嘉村 ふむふむ。

三葉 主人公は、「こうなれば諸共だ!会社に爆弾でも仕掛けてやろうか!」と自暴自棄になるが……その時、Bくんがやってきます。聞けば、彼も退職願を提出したという。

嘉村 ほぉ……Bくんは人事部所属ですもんね。主人公やAさんに対する会社の不誠実な対応を間近で見ていた。きっと、「とてもではないが、もうこの会社にはいられない」と考えたのでしょうね。

三葉 その通りです。そして、Bくんは言う「オレは、この先も人事畑を歩むつもりだ。Aさんや……それからお前のように苦しむ社員を少しでも減らしたいからな」。

嘉村 おー、カッコいい!

三葉 彼は続けて、「ところで、人事マン最大のタブーを知っているか?」「タブー?……ああ、社員の個人情報を漏らすことだろ」「そうだ。個人情報を漏らす人事マンは死んだ方がいい。……だからこれは人事マンとしてではなく、お前の友人としてのお節介だと思ってほしいのだが……」。

嘉村 一体何でしょう。

三葉 主人公は苦笑する「何だよ。前置きの長いヤツだな」。Bくんはメモを差し出します「Aさんはこの病院に入院している」「お前、それって……」「オレは昨日会ってきた。どうしても気になってな。彼女、最近になってようやく眠れるようになったそうだ。それから、食事をおいしく感じるようになったと言っていたな」「……そうか」「ああ。まだ退院は先だろうが、嬉しそうだったよ」「……うん」「あと、お前に会いたがっていたぞ」。

嘉村 なるほど。

三葉 とまぁそうこうする内に、主人公は「いつまでもあんな会社に関わっていてもいいことないよな……。よし、再就職だ!」と前向きになる。そして、「就職先が決まったらAさんに会いにいこう!頑張るぞ!」……というところで、物語は幕を閉じます。

嘉村 ふむふむ。

三葉 さて、ここまで見てきた通り……主人公やAさんはブラック企業に所属していました。彼らはひどい目に遭った。そして主人公は、会社に対して復讐を誓う。ところがそれは失敗に終わる。それどころか、主人公は退職に追い込まれる。……「主人公は、復讐すらできぬほどに無力だった」と言えるでしょう。

嘉村 ええ。

三葉 しかし、それでよかったのです。そもそも主人公は、Aさんが休職する以前からまともではありませんでした。「明かな過労状態でありながら、退職を考えられない」……ブラックな働き方をしていたせいで、正常な判断力を失っていたと言えるでしょう。もしAさんの件がなかったら、主人公はどうなっていたでしょうか?

嘉村 そう遠くない内にぶっ倒れていた……。

三葉 その通りです。

嘉村 ふむ。

三葉 しかし、主人公は退職した。会社を離れた。その結果、彼はまともな判断力を取り戻しました。その上、Aさんと親しくなる機会を得た。また、Bくんが一流の人事マンになるきっかけを提供した。……すべては、主人公が無力だったからこそです。無力で復讐に失敗したからこそ、彼は幸福な人生を歩み始めたのです。「ファハドの物語」同様、「失敗してよかったね!」式の物語と言えるでしょう。


案②


嘉村 続いて、「案②」にまいりましょう。

三葉 はい。「案②」は、「『異世界人に対する復讐に失敗するが、じつは失敗してよかったのかもね!』という転生者の物語」です。


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嘉村 今度は、異世界!

三葉 ええ。まずは、「ファハドの物語」との比較表をご覧ください。


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三葉 ストーリーをご紹介しましょう。主人公は男性転生者で、舞台は異世界……そう!これは「異世界転生もの」です。


嘉村 ふむふむ。

三葉 一般的な「異世界転生もの」では、主人公は転生時に特別な能力を授かるものですが……「案②」の主人公は違った。彼は何も授からなかった!

嘉村 ほぉ。

三葉 そして、もう1つ彼が不幸だったのは……異世界の住民が総じて優秀だったことです。彼らは文武両道。さらに眉目秀麗。主人公はあらゆる面で劣っていた。

嘉村 つまり……主人公はグズだったと。

三葉 ええ、彼はグズでした。

嘉村 なるほど……。

三葉 かくして彼は、街外れの廃屋でこっそり暮らし始めました。街中に住んで住民と交流しても、グズと囃し立てられるだけですからね。

嘉村 何とも寂しいですね……。

三葉 主人公の仕事は、野草の採取です。なぜなら、他にできることがなかったから。彼は野草を薬屋に売り、幾ばくかの金を得て、そして食料を買って暮らしていた。

嘉村 うーむ……。

三葉 しかし、そんな彼にも優しくしてくれる人がいました。

嘉村 ほぉ。

三葉 街の薬屋の娘です。彼女は、グズの彼にも親切にしてくれた。時には「残り物ですけれど、コレ、よかったら」と料理を持たせてくれることもある。

嘉村 おー!

三葉 彼女は、主人公の生きがいです。週1回薬屋に行く日だけが彼の楽しみだった。そう……恋していると言ってもいいでしょう。しかし、相手は美しい娘。対する自分はグズ。「何も期待してはいけない」と彼は自分を諫める。「期待すれば、あとで辛い思いをするだけだ」。

嘉村 ……悲しい気持ちになってきた。

三葉 主人公は、記憶を頼りに娘の似顔絵を描き、壁に飾ってみる。自分でも絵心がないと思う。しかし……それでも心安らぐものがある。

嘉村 なるほど。

三葉 さて……そんなある日のことです。街の不良らが、彼の家にやってきた。酔っ払っているようです。連中はさんざん主人公をからかい、やがて壁に貼られた娘の絵を見つける。彼らは笑い転げる「こいつ、恋してやがる」「分不相応なヤツだ!」「おい、このスケッチブックを見ろよ。こっちにも似顔絵があるぞ」「よーし、本人に見せてやろうぜ」。彼らは絵を持ち出そうとする。主人公は引き留めるが、そもそも体のつくりが違う。彼は突き飛ばされ、抵抗虚しく絵は持ち去られる。主人公は起き上がり、慌てて後を追う。しかし……間に合わなかった。見よ。不良らが、娘に絵を見せている!娘は困惑顔だ。主人公の目の前が暗くなる。

嘉村 ふむ。

三葉 主人公は家に戻る。そして、剣を握ります。主人公にとって、あの娘は唯一の希望だった。それを奪われたのだ。彼は思う「もうどうなってもいい……もうこれで終わってもいい……」。

嘉村 ゴンさんみたいですね。


三葉 連中は酔っ払っていました。身体能力に大きな差があるとはいえ、隙をついて襲撃すれば何とかなるだろう。全員とは言わぬ。1人でも2人でもいい。ぶち殺してやる!無論彼自身もひどい目に遭うでしょうが……彼は死を覚悟していた。

嘉村 ふむふむ。

三葉 かくして彼は出発。不良らを発見する。そして襲いかかる……が、彼我の差は想像以上に大きかった。一太刀も浴びせられぬまま剣を奪われ、彼はボコボコにぶん殴られてしまう。やがて不良らは去る。主人公は道に倒れたままだ。起き上がる気力が湧かない。浮かんでくるのは涙ばかり。神よ!呪うぞ!

嘉村 あらー……哀れだ……。

三葉 その時、美しい声が聞こえてくる「あら……大変!」。そう、それはあの娘の声です。彼女は主人公を家に連れ帰り、甲斐甲斐しく介抱してくれる。主人公の目からは涙がこぼれ落ちます。自分のような無価値の人間が、美しい娘の手を煩わせている……消えてしまいたい。あまりにもいたたまれず、思わずつぶやく「生きていてごめんなさい」。

嘉村 なるほど。

三葉 しかし、娘は微笑む「そんなことを言ってはいけませんよ。元気になって……また絵を描いてください。私、あなたの絵が好きです」。

嘉村 ほぉ!

三葉 とまぁ、そんな具合に主人公は娘と親しくなります。この先2人がどうなるかはわかりませんが……いずれにせよ、主人公は何の能力も持たぬグズ。役立たず。無能者。復讐することすらできない。しかし、それゆえに娘と親しくなれたのです。「失敗してよかったね!」式の物語と言えるでしょう。

嘉村 ふむふむ。

三葉 以上、「『ファハドの物語』をリスペクトした物語」のアイデアをご紹介しました!


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 「クラッシュ」の研究はこれで終了です。ありがとうございました。

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 最後までお読みいただきありがとうございました。みなさんの今後の創作・制作のお役に立てば幸いです。

(担当:三葉)

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