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エッセイ・コラム

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#小説

「好き」の原体験を探る

「好き」の原体験を探る

そういえば、ことあるごとに文章を書くのが好きだ好きだと言って憚らない私だが、そもそも文章を書くのが好きになったきっかけはなんだったのだろうか。

仕事をする前、大学の時分には暇を持て余してつたない小説を書いたことがあった。どれも陰鬱な作品ばかりで小説とは人間性がよく出るものだと我ながら感心したものだが、同時に小説を書く作業というのは苦難以外の何物でもなく、おそらく私には向いていないのだろうと半ばあ

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本屋には「きっかけ」が満ちている

本屋には「きっかけ」が満ちている

かつて私は本が嫌いであったという話をしたことがあったけれども、まともに純文学を読み始めるようになったきっかけは、間違いなく作家の中村文則さんの『遮光』にある。

出会いのきっかけも同様に書いてあるが、今思えば本屋における偶然の出会い(いわゆるセレンディピティである)であったように思う。
なんせ、そのときたまたま実家の駅前の本屋で「いま売れ筋です」みたいな感じの特設コーナーで置いてあっただけなのだ。

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事実って小説より奇です

事実って小説より奇です

「事実は小説より奇なり」ということばがある。読んで字のごとく、現実社会のほうが作りものの小説より不思議な出来事も起きることもあるといううことだ。

小説は読後にすっきりとする現象(いわゆる「カタルシス」)があるために、伏線が回収されたり、うまいこと話がまとまっていったり、ハッピーエンドになったりすることが多い。
最近流行りの「異世界転生もの」も同じようなもので、なんだか冴えない主人公が異世界にいっ

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書くこと #とは

書くこと #とは

書くこととは自分にとって、何なのだろう。そんな疑問に向き合うきっかけになる文章に出会った。
講談社の「野間文芸新人賞」を受賞した町屋良平さんが、同賞の受賞を受けてしたためた文章だ。(……は中略)

そもそも新聞記事など、小説とは世界は異なるし、文量と質ともに比肩しうるところなどまずない。
ただ、曲がりなりにも「文章を書く」ということを仕事にしている身として、非常に考えさせられることばたちである。

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死ぬことと本を読むこと②

死ぬことと本を読むこと②

「遮光」は見事な作品だった。彼女との死を経験した虚言癖のある男の話だが、最後のシーンの美しさは言葉にできない。激しくネタバレするのだが、要は死んだ彼女の小指を口に含んでフィニッシュ。彼女自身を肉体に受け入れる瞬間なのである。
「気持ち悪い」と一蹴する向きもあろうが、私にとっては至上の美しさを持った描写だった。
死と生の交錯を見たような気がした。

そして、小説とはその肝心な描写に入るまで、とにかく

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