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記事一覧
ごはん杖 (毎週ショートショートnote)
「そば杖を食うってやつですよ」
後輩の西山君はエンターキーを力いっぱい叩きながら腹立たしそうに言った。別チームの尻拭いのために休日出勤になり、西山君は機嫌が悪い。
「傍杖なんて言葉よく知ってたね」
西山君はいい大学を出ている割に言葉を知らない。
「バカにしないでください、それくらいは知ってます。大体あいつら、いつも俺たちを『残業ばっかりの給料泥棒』なんて言うくせに…」
「まあ、貸しを作
鳥獣戯画ノリ (毎週ショートショートnote)
昼食から戻るとデスクの上に鳥獣戯画のメモ用紙が置いてあった。
作者もまさか800年後にマグカップやメモ帳にされるとは思わなかっただろう。
カエルが喋ってるような伝言の文字は柔らかな筆跡だった。
【○○さんへ折り返しお願いします 佐藤】
数年前に社内恋愛をしていた元彼と佐藤さんが結婚すると聞いたは先週のことで、律儀な彼は上司へ報告する前日、直接伝えにきた。
「不愉快な思いをするかもしれ
告白水平線 (毎週ショートショートnote参加)
今年も【告白!水平線】が開催されている。
浜に作られた特設ステージから、水平線に向かって大声で何らかの告白をするというよくある町おこしイベントだ。
役場勤めの友人に今年こそ参加しないかと何度も誘われたけど断った。人前で大声で叫ぶことができて盛りあがるけど引かれない、そんな丁度いい告白は持ち合わせていない。
「おじいちゃんの鶏を逃したのはー
わたしでーす」
「すきだー
けっこんしてくれー」
半笑いのポッキーゲーム (毎週ショートショートnote参加)
「さて、君にはポッキーゲームに挑戦していただきます」
え?急になに?
「ポッキーゲームですよ、ポッキーゲーム、
もしかして知らない?」
いや、知ってるけど、
そういうことじゃなくて...
「相手はー、なんと!私でーす」
まあ、そうだろうと思ったよ、
この部活2人しかいないしさ
「はい、じゃあルールの確認ね、
ポッキーの端をそれぞれ咥え...」
いや、知ってるから、
罰ゲームあり?
ほんの一部スイカ(毎週ショートショートnote参加)
『食ってしまっても記憶は残る』そんな一節が帯に書かれた小説、なんだったかな。
好きな作家だったはずなのに思い出せないや。
あの夏、丸いまんまの大きなスイカをさげて庭から入ってきた君。
あのスイカ、どうやって食べたっけ?
庭でスイカ割り?
それとも丸ごと皮を剥いた?
あの年はスイカの出来が良くて、立派なのが安く売られていたから、バカみたいに毎日スイカを食べた。
「種ごと食べると、盲腸になるよ
スナイパーの意外な使い方(毎週ショートショートnote参加)
腕は立つが依頼人の言うことを聞かないKと、口は達者でも腕がイマイチな俺はスナイパーとして食い詰めていた。しかし、ダメ元で始めた『ハート撃ち抜きます』という事業が大当たり。
プロポーズと同時に、相手の心臓に向けて角砂糖の弾丸を撃つのだ。胸にあたった僅かな衝撃を"感動"と錯覚し、プロポーズは大成功、砂糖は飛び散って証拠隠滅。めでたしめでたし。
角砂糖はご丁寧にハートの形にした。
事業が話題となり、
生き写しバトル (毎週ショートショートnote参加)
純白のドレスに身を包み、輝く笑顔を見せている妹の横に立っているのは、私の好きな人だ。
一卵性双生児の私達は、顔だけでなく趣味も似ていた。好きなアーティストもブランドも。
ずっと3人一緒にいたのに、彼が選んだのは妹だった。気づいた時には2人はすっかり出来上がっていて、私には争う余地も勇気もなかった。
両親と一緒に参列者に挨拶をしている。初めて会う妹の友達に「ホントそっくり、写真いいですか?」な
塩人(しおんちゅ) (毎週ショートショートnote参加)
夜中にほとほとドアを叩く音がして、開けるとそいつが入ってきた。子供が作った人形のように不恰好で、透き通るほど白い生き物。
「なんだ、お前」
「ちおんちゅ、ちおんちゅ」
それしか言わないが、丸い目と上がった口角から笑っているのはわかる。ちおんちゅは俺以外には見えないようだが、犬にはよく舐められる。毎日散歩に連れ出されるので、運動不足だった俺はたくさん汗をかくようになった。
子供向けのアニメを観
アナログ巌流島 (毎日ショートショートnote参加)
フィルム撮影に拘った映画《アナログ巌流島》の撮影を終え、小次郎役のナオトとカプ厨向けに距離感バグったツーショを何枚か撮る。その場でSNSにあげ、「お疲れー」と言ってナオトと別れた。
理解出来ないが、これに刺さる層が少なからず存在していて、直ぐにイイネ!がついた。
アナログ巌流島というからには、デジタル巌流島もある訳で、そっちは俺とナオトを含む剣豪キャラ数名でアバターを使った配信をしている。主に
顔自動販売機(毎週ショートショートnote参加)
駅前の自動販売機で死んだ姉の顔を買い、母のいるホームへ向かう。
依存していた姉を亡くしてから、母は私を姉の名で呼ぶようになった。
「まぁちゃん、まぁちゃん」
出来が良く、自慢の娘だった姉
いつものように、とうに亡くなった姑の悪口やホームの人の噂話をしていたかと思うと、テレビの話。とりとめなく話し続けるのを、姉がしていたように適当な相槌を挟みながら聞いてやる。
一通り話し終えると、
「ま
メガネ朝帰り(毎週ショートショートnote参加)2
中学の頃、"メガネ"と呼ばれていた。
クラスの三分の一がメガネだったのに、自分だけメガネと呼ばれることに特に不満はなかった。
実際メガネだったし。
クラスの全員がそう呼ぶのに、1人だけ必ず苗字で呼ぶ人がいた。話したのは数回、多分委員会かなんかの用事で。
騒がしいグループにいたのに、寡黙でいつもペン回しをしている人だった。授業中だけじゃなく、廊下を歩く時も全校集会でも。
ペン回しの技にソニック
メガネ朝帰り(毎週ショートショートnote参加)1
顔は知ってるけどたいして親しくなかった同級生と偶然会うのは気まずい。それが地元の駅へ向かう始発電車の中ならば尚更。
"メガネ"は中学の同級生で一度だけ同じクラスになった。クラスの三分の一はメガネだったのに、何故か"メガネ"だけがメガネと呼ばれていて、それを誰もが当たり前に受け入れていた。当の本人でさえ。
話したのは数えるほど。委員会とかそんな用事で。でも"メガネ"の右手の甲に二つならんだホクロ
グリム童話ATM(毎週ショートショートnote参加)
道端に干からびて死にそうな蛙がいる。
げっ気持ちわる
避けて通ろうとすると、「助けてください。ATMに連れて行ってください」と言われた。
蛙が喋ったことより、蛙の口からATMと言う単語が出たことに驚き、つい足を止めてしまったのだから仕方ない。食べかけのチョココロネを無理やり口に押し込み、空袋に乗せてATMに運ぶことになった。(素手は無理だった)
蛙曰く、全てのATMは童話の世界と繋がってい
メガネ初恋 (毎週ショートショートnote参加)
夏祭りの射的で当てたメガネは、それを通して見た人の、初恋の人が視える。そんな訳で人の初恋話を聞いてまわっている。
祖父の初恋は親戚のおねえさん。
色白のふっくらしたその人に叱られたくて、わざと悪戯ばかりしていたらしい。
母の相手は日に焼けた小学生。
「野球少年だったのよ」と少女の顔でうっとりしている。
歳をとると初恋の話がしたくなるようだ。
甥っ子を抱いた兄夫婦が顔を出した。
義姉の横には