ほんの一部スイカ(毎週ショートショートnote参加)
『食ってしまっても記憶は残る』そんな一節が帯に書かれた小説、なんだったかな。
好きな作家だったはずなのに思い出せないや。
あの夏、丸いまんまの大きなスイカをさげて庭から入ってきた君。
あのスイカ、どうやって食べたっけ?
庭でスイカ割り?
それとも丸ごと皮を剥いた?
あの年はスイカの出来が良くて、立派なのが安く売られていたから、バカみたいに毎日スイカを食べた。
「種ごと食べると、盲腸になるよ」私が止めても、「あ、それ迷信らしいよ、香ばしくて美味しいんだよね」なんて君は笑っていたね。
食べきれなくていつまでも冷蔵庫に残っていたけど、夏が終わる頃にようやくゴミに出した。
あの夏はもう随分遠くなった。
君の顔は思い出そうとするほど曖昧になり、君の唇に残ったスイカの甘さも、揺れる風鈴の音も忘れてしまった。
でも、食べたものは食べた人の身体の一部になり、記憶に残っていくのだとしたら。
今でも私のほんの一部はスイカであり、
ほんの一部は君なんだ。
(411字)
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