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書評

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2023年に巡り合った印象的な10冊の本

2023年も今日を含めて残すところあと2日となりました。

そこで、今年読んだ書籍の中から特に印象深い10冊を刊行日順に選ぶと、以下の通りとなります。なお、文庫化や再版の作品は除き、一人の著者で複数の書籍が刊行された場合はとりわけ素晴らしい1冊を選んでいます。

君塚直隆『貴族とは何か』(新潮社)

竹内桂『三木武夫と戦後政治』(吉田書店)

温又柔『私のものではない国で』(中央公論新社)

岩井

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【書評】君塚直隆『貴族とは何か』(新潮社、2023年)

去る1月25日(水)、君塚直隆先生のご新著『貴族とは何か』(新潮社、2023年)が刊行されました。

貴族の姿を古代から現代にいたるまで通覧する本書は、特権的身分としての貴族ではなく、自らに課せられた「高貴な義務」を果たすことで社会の発展と人々の福祉に貢献する存在としての貴族の姿を鮮やかに描き出します。

特に、古代以来世界各地で生まれた身分としての貴族が消滅・解体する過程と、現在も「貴族院」を有

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【書評】伊東潤『一睡の夢』(幻冬舎、2022年)

昨年12月14日(土)、伊東潤先生の小説『一睡の夢』(幻冬舎、2022年)が刊行されました。

前作『天下大乱』(朝日新聞出版、2022年)では、徳川家康と毛利輝元という、ともに自らの凡庸さを自覚する2人を対比させ、関ケ原の戦いへと至る過程に焦点を当て、1990年の英国のテレビドラマ"House of Cards"のように人々の欲と野望に満ちた姿が取り上げられました。

今回は、関ケ原の戦いを経て

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【書評】峯村健司『ウクライナ戦争と米中対立』(幻冬舎、2022年)

去る9月20日(火)、峯村健司さんの新著『ウクライナ戦争と米中対立』(幻冬舎、2022年)が刊行されました。

本書は、2022年2月24日(木)に始まったロシアによるウクライナへの侵攻を開始したことを受け、現在の世界は従来の国際秩序の転換点にあるという理解に基づき、峯村さんが各分野の専門家と行った討論をまとめたものです。

対話に参加したのは、2020年に6回にわたり幻冬舎が主催した連続講座「米

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【書評】岩井秀一郎『服部卓四郎と昭和陸軍』(PHP研究所、2022年)

去る6月29日(水)、岩井秀一郎先生のご新著『服部卓四郎と昭和陸軍』(PHP研究所、2022年)が出版されました。

本書は、大東亜戦争中に二度にわたり参謀本部戦争課長を務めた服部卓四郎の生涯と昭和期の陸軍のあり方に焦点を当て、陸軍の体質が個人にいかなる影響を与えるか、そして一人の軍人の行動がいかにして組織全体の動向を左右するかを実証的に検討した一冊です。

今回「太平洋戦争」ではなく「大東亜戦争

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【書評】室靖治『「記録の神様」山内以九士と野球の青春』(道和書院、2022年)

去る6月30日(木)、室靖治さんの『「記録の神様」山内以九士と野球の青春』(道和書院、2022年)が刊行されました。

本書はプロ野球パシフィック・リーグの第2代記録部長を務めたほか、野球規則の検討や1936年に始まる日本職業野球連盟とその後継組織による公式戦の記録の整備など、野球界の発展の基盤を支えた山内以九士の人となりを、孫である著者が描く一冊です。

新聞記者として培った取材や調査の能力をい

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【書評】マンボウやしろ『あの頃な』(角川春樹事務所、2022年)

去る2月18日(金)、マンボウやしろさんの小説『あの頃な』(角川春樹事務所、2022年)が刊行されました。

本書は、新型コロナウイルス感染症の「誕生」に始まり、「コロナ下」の人々の姿や「コロナ後」の世界の様子、さらに新型コロナウイルスと人間の対峙などを主題とする書下ろしの短編25作からなります。

一見すると相互に繋がりの内容に思われる25編ながら、実際には「コロナ下」での出来事が未来の世界の背

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【書評】伊東潤『威風堂々』上下巻(中央公論新社、2022年)

去る1月10日(月)、伊東潤先生のご新著『威風堂々』上下巻が中央公論新社から出版されました。

本書は佐賀新聞での連載をまとめたもので、大隈重信が幕末維新期の動乱から明治時代における新国家の建設、そして新たな発展の段階を迎えた大正時代までどのように生き、何を目指し、何を成し遂げたかが描かれています。上巻の副題は「幕末佐賀風雲録」、下巻は「明治佐賀風雲録」です。

要領のよさでは人一倍の能力を発揮し

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【書評】伏見博明『旧皇族の宗家・伏見宮家に生まれて』(中央公論新社、2022年)

今年1月26日、伏見博明氏の『旧皇族の宗家・伏見宮家に生まれて』(中央公論新社)が刊行されました。

本書は伏見宮家の第24代当主で1947(昭和22)年に皇籍離脱を行った伏見博明氏に行った全10回の聞き取り調査の結果をまとめたもので、編者は古川江里子先生と小宮京先生です。

1409(応永16)年に成立し、天皇一家及び直宮家以外の旧皇族の「本家」、あるいは「もうひとつの天皇家」とも称される伏見宮

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【書評】岩井秀一郎『最後の参謀総長 梅津美治郎』(祥伝社、2021年)

去る12月10日(金)、岩井秀一郎先生のご新著『最後の参謀総長 梅津美治郎』(祥伝社、2021年)が刊行されました。

本書は、1944(昭和19)年7月に参謀総長となり、翌年9月2日に戦艦ミズーリ号の艦上で大本営全権として降伏文書調印式に臨んだ「最後の参謀総長」梅津美治郎を取り上げ、大分県中津町に生まれた「是永美治郎」が2・26事件、ノモンハン事件、ポツダム宣言受諾と敗戦処理の3つの「後始末」を

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【書評】伊東潤『夜叉の都』(文藝春秋、2021年)

去る11月22日(月)、伊東潤先生の小説『夜叉の都』(文藝春秋、2021年)が上梓されました。

「武士の府を築く」という大義のために生涯を捧げた源頼朝とその志を貫徹しようとする北条政子の姿を描いた『修羅の都』(文藝春秋、2018年)を受け、前作が断片的に描いた頼朝の亡き後の鎌倉府の様子が主題となります。舞台となるのは第2代将軍源頼家の治世である1199(建久10)年から、藤原頼経が第4代将軍とな

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【書評】古田元夫『東南アジア史10講』(岩波書店、2021年)

去る6月18日、古田元夫先生のご新著『東南アジア史10講』(岩波書店、2021年)が刊行されました。

本書は青銅器時代から現在に至るまでの東南アジアを対象に、地域の地理的、文化的、政治的、宗教的な特徴と変化を時代の推移とともに概説します。

人種的には南方系のモンゴロイドに属する人々を中心とするものの、言語や宗教の面で多様で、あるいみで「まとまりのない」(本書5頁)を結ぶ共通性として稲作農業と海

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【書評】歴史街道編集部編『日本陸海軍、失敗の研究』(PHP研究所、2021年)

去る7月29日(木)、歴史街道編集部の編集による『日本陸海軍、失敗の研究』(PHP研究所、2021年)が刊行されました。

本書は昭和時代の陸海軍の活動及び太平洋戦争の和平交渉の3部に分けられ、9人の執筆者が雑誌『歴史街道』に寄稿した論考14報及び雑誌Voiceの掲載論文1報をまとめて刊行した一冊で、執筆を担当したのは初出順に保阪正康、岩井秀一郎、小谷賢、大木毅、早坂隆、原剛、戸髙一成、松田十刻、

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【書評】君塚直隆『王室外交物語』(光文社、2021年)

去る3月17日、君塚直隆先生のご新著『王室外交物語』(光文社、2021年)が刊行されました。

「人類にとって外交とはそもそも王様同士の付き合いから始まったものではないか」という視点に基づく本書は、紀元前14世紀の古代中東から現在の王室外交のあり方までを通覧します。

当事者が対等な関係に基づいて相互に対等性を認めることが外交の第一歩であり、大国が周辺国を従える状況では外交は生まれないという指摘(

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