【書評】岩井秀一郎『最後の参謀総長 梅津美治郎』(祥伝社、2021年)

去る12月10日(金)、岩井秀一郎先生のご新著『最後の参謀総長 梅津美治郎』(祥伝社、2021年)が刊行されました。

本書は、1944(昭和19)年7月に参謀総長となり、翌年9月2日に戦艦ミズーリ号の艦上で大本営全権として降伏文書調印式に臨んだ「最後の参謀総長」梅津美治郎を取り上げ、大分県中津町に生まれた「是永美治郎」が2・26事件、ノモンハン事件、ポツダム宣言受諾と敗戦処理の3つの「後始末」を行うに至ったかを検討します。

陸軍大学校を首席で卒業したことが示す明晰な頭脳を持ちながら、派閥を形成したり他の軍人兵士と「親分子分」の関係を作らなかったこと、さらに喜怒哀楽を示さない態度であったことなどから、「陰謀家」「何を考えているか分からない」「統制派の巨頭」といった批判を受けて来たのが梅津でした。

その様な梅津の足跡をこれまでの研究成果や各種の史資料、さらに梅津家への聞き取りと資料調査によって描くことで明らかになるのは、軍人の政治への干与を強く戒めた「軍人勅諭」に忠実であった姿です。

一方で、軍人の本分を守り、政治と距離をとったことで、かえって軍が危機的な状況を迎えた際に梅津が輿望を担って「後始末」の役目を託されたという事実は、昭和に入ってからの軍部が常態を逸するだけでなく、異常な状況が改められないままであったことをわれわれに教えます。

それとともに、「東條英機ではなく梅津が首相兼陸相であれば日米開戦を避けられた」といった主張について、その時代を経験していないわれわれが安易に判断するのは避けるべきという著者の抑制的な態度(本書245頁)は、梅津の禁欲的ともいえる態度に通じるものがあります。

こうした姿勢は梅津に対する評価を著しく高めたり過小に見積もることを避け、秩序を重んじ、慎重に事柄を進めつつ判断すべき時に適切な判断を下す梅津の姿を明瞭に描き出すことに大きく寄与しています。

梅津家が所蔵する一家団欒の様子を収めた写真(本書115頁)といった一人の人間としての等身大の像も紹介する『最後の参謀総長 梅津美治郎』は、これまでの梅津美治郎研究を概観するために好適であるとともに、今後の梅津研究のために不可欠な一冊といえるでしょう。

<Executive Summary>
Book Review: Shuichiro Iwai's "Yoshijiro Umezu, the Last Chief of the Army General Staff" (Yusuke Suzumura)

Mr. Shuichiro Iwai published a book titled Yoshijiro Umezu, the Last Chief of the Army General Staff from Shodensha on 10th December 2021.


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