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評論

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2022年5月の記事一覧

里中満智子さんの「私の履歴書」が伝える日本の漫画史の一断面と漫画の未来

今日、漫画家の里中満智子さんが担当した2022年5月期の日本経済新聞の連載「私の履歴書」が終了しました。

物心がつく前に漫画に出会い、小学校2年生から貸本屋に通い始め、中学生のころから漫画家になることを考え始めた里中さんが1964年に16歳で職業漫画家となるまでの様子と、その後の歩みが具体的な逸話とともに紹介された今回の連載は、1950年代から現在に至るまでの日本の漫画史の一断面を活き活きと描き

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「根尾昂選手の投手としての起用」を巡る議論の問題手は何か

昨日公開された『デイリー新潮』の記事「投手をやらされた中日「根尾昂」の現在地」では、5月21日(土)に中日ドラゴンズの根尾昂選手がMAZDA Zoom-Zoomスタジアム広島で行われた広島東洋カープ戦で投手として登板したことを取り上げ、野球評論家らの批判的な見解を紹介しました[1]。

「投手として鍛えるんであれば2年、3年必要」「打つ方も投げる方も中途半端になってしまう」「根尾は今のままでは中日

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「マスク着用基準の変更」の問題点は何か

5月23日(月)、政府は新型コロナウイルス感染症対策本部を開催し、「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」を変更するとともに、マスクの着用については屋内でも他者との距離が2メートル以上確保でき、会話をほとんどしない場合には、着用の必要がないと明記しました[1]。

学校での体育の授業や運動部の活動の際にマスクの着用を不要としたこと、あるいは幼児に対して保育所で一律の着用を求めないとしたこと

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「マイナ保険証の利用促進」はいかなる問題を持つか

政府は今年6月にまとめる経済財政運営の指針である「骨太の方針」に、いわゆるマイナンバーカードと健康保険証の機能を併せ持つ「マイナ保険証」の利用を促し、将来的には現行の健康保険証の原則廃止を目指す方針を明記する方向で検討に入りました[1]。

「マイナ保険証」の推進は、政府のデジタルトランスフォーメーション(DX)政策の一環で、デジタル技術により医療や介護分野の改革を目指し、2023年度から医療機関

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大リーグが「ウクライナ問題」に傍観者でいられる理由

去る4月25日(月)、日刊ゲンダイの2022年4月26日号26面に連載「メジャーリーグ通信」の第114回「大リーグが「ウクライナ問題」に傍観者でいられる理由」が掲載されました[1]。

今回は、今年2月24日に始まったロシアによるウクライナへの侵攻を受けてスポーツや芸術の分野でロシア人を排除する動きが起きた中で、大リーグが事態を静観するかのような態度を示している理由を検討しました。

本文を一部加

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「戸籍氏名への読み仮名導入」は裁量行政の余地を排し簡素な仕組みにせよ

昨日、法務大臣の諮問機関である法制審議会の戸籍法部会が戸籍法改正の中間試案をまとめ、戸籍の氏名には漢字しか記載されていない現状を改め、新たに読み仮名を記すことについて3つの案を提示しました[1]。

案として挙げられたのは、以下の3項です[1]。

現在の対応を踏襲するのが(1)、最も厳密な措置が(2)、そして折衷案が(3)となります。

今回法制審議会がこうした措置の導入を検討するのは、現行の制

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発生後90年目に考える「五・一五事件の現代的意義」

去る5月15日(日)、1932(昭和7)年5月15日にいわゆる五・一五事件が起きてから90年が経ちました。

周知のとおり、五・一五事件は三上卓ら海軍の青年将校や陸軍の士官候補生らが犬養毅首相を官邸で射殺し、立憲政友会本部、日本銀行、三菱銀行、警視庁などを襲撃するとともに、茨城県の私塾である愛郷塾の塾生による農民決死隊が変電所を襲撃した反乱です。

五・一五事件後に重臣や海軍軍人といった宮中官僚の

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「本土復帰50周年記念」で考える「沖縄問題のいま」

昨日、沖縄県が1972年5月15日に米国の統治から日本に復帰してから50年目を迎えました。

沖縄県宜野湾市で行われた記念式典では、岸田文雄首相が「強い沖縄経済」の実現や在日米軍基地の負担軽減への取り組みを強調する一方、玉城デニー知事が自立型経済の実現が途上にあることや「沖縄を平和の島とする」という目標が依然として達成されていない指摘するなど、沖縄県を取り巻く問題の解決への道のりの遠さが示されまし

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「フィンランドとスウェーデンのNATO加盟申請問題」は日本にとっていかなる意味を持つか

昨日、フィンランドのニーニスト大統領とマリン首相が共同で声明を発表し、フィンランドが速やかに北大西洋条約機構(NATO)に加盟する意向を示しました[1]。

また、フィンランドと同様にNATOに加盟していないスウェーデンも、5月16日(月)にアンデション首相が加盟申請の方針を表明する見通しであるとされています[1]。

ロシアと約1300キロにわたり国境を接し、第二次世界大戦中のいわゆる冬戦争や継

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尹錫悦政権の発足により日韓関係はどのように推移するか

昨日、韓国の第20代大統領に尹錫悦氏が就任しました。

革新系の文在寅前政権を経て、5年ぶりの保守系政権の誕生により、日米関係を重視する外交への転換と日韓関係の改善が期待されます[1]。

ところで、韓国の政治は、1987年の民主化宣言以降、保守と革新の政権交代により、外交政策が日米重視と南北間の融和の優先のいずれかで揺れ動いてきたのは周知の通りです。

文前政権の場合は、徴用工訴訟問題や軍事情報

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「プーチン大統領の対独戦勝記念日演説」はいかなる意味を持つか

昨日、ロシアの首都モスクワで第2次世界大戦における対ドイツ戦勝記念日の祝賀行事が行われ、プーチン大統領が演説の中でウクライナへの侵攻を「唯一の正しい決定だった」とする一方、具体的な戦果や「戦争状態」の宣言はありませんでした[1]。

前者についてはすでに予想された内容であるだけに、ある意味でロシア側としても演説の中に織り込むのは当然の措置であったと言えるでしょう。

一方で、後者については各国が戦

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日本国憲法施行75周年目に考える「改憲への道のり」が依然として遠い理由

今日、1947(昭和22)年5月3日に日本国憲法が施行されてから75年目を迎えました。

この間、日本国内のみならず国際情勢も変化し、日本国憲法が制定された当時には考えられなかったような状況を踏まえれば、憲法の内容の修正や追加が必要であるという意見も一考に値すると言えるでしょう。

従って、憲法の条文の変更に賛成するのであれ反対するのであれ、何があっても変更する、あるいは変更しないといった予断を排

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