「根尾昂選手の投手としての起用」を巡る議論の問題手は何か

昨日公開された『デイリー新潮』の記事「投手をやらされた中日「根尾昂」の現在地」では、5月21日(土)に中日ドラゴンズの根尾昂選手がMAZDA Zoom-Zoomスタジアム広島で行われた広島東洋カープ戦で投手として登板したことを取り上げ、野球評論家らの批判的な見解を紹介しました[1]。

「投手として鍛えるんであれば2年、3年必要」「打つ方も投げる方も中途半端になってしまう」「根尾は今のままでは中日投手陣に入ってくる能力はない」といった指摘は、確かに正鵠を射るものであるかのように思われます。

その一方で、われわれは異なる視点があることも知っています。

例えば、開幕直前の今年3月24日(木)に野球評論家の権藤博さんが日本経済新聞朝刊の連載「悠々球論」で「投打二刀流でフル回転したら、きっと変わる」と指摘したこと[2]などは、根尾選手を投手として起用することを肯定する代表的な議論です。

すなわち、権藤さんは次のように述べます。

甲子園の主として活躍した根尾にとって、1軍に上がっても試合に出たり、出なかったりの境遇は慣れないものだ。これはストレスがたまる。
プロはレベルが違うのだから仕方がない、という意見もあるだろうが、根尾のような主役タイプは試合に出続けることが大事だ。
ぱっとしなかった投手が、中継ぎであれ、起用し続けることで一人前になった例を、私はコーチとして何人もみてきた。あしたも1軍にいられる、試合に出られる、と思えば選手の顔つきが変わってくる。根尾も投打二刀流でフル回転したら、きっと変わる。

もちろん、権藤さんの議論は開幕前のものです。そのため、今回の事例に対する直接の見解ではなく、現時点で意見を求めれば異なる回答が寄せられるかも知れません。

しかし、たとえ開幕前の議論であるとしても、これまで指導者として多くの選手を育ててきた実績に基づく見解であるとするなら、説得的であると言えるでしょう。

それだけに、今回の記事で根尾選手の投手としての出場に肯定的あるいは中立的な意見が記されなかったことはより精緻な議論を求めるという観点からすれば、隔靴掻痒の感をまぬかれないものであったと考えられるところです。

[1]投手をやらされた中日「根尾昂」の現在地. デイリー新潮, 2022年5月26日, https://www.dailyshincho.jp/article/2022/05260601/ (2022年5月27日閲覧).
[2]権藤博, 根尾に勧める二刀流. 日本経済新聞, 2022年3月24日朝刊41面.

<Executive Summary>
What Is a Problem for a Discussion Concerned with Mr. Akira Neo's Appearance as a Pitcher? (Yusuke Suzumura)

Mr. Akira Neo of the Chunichi Dragons, a field player, appeared as a pitcher in the game against the Hiroshima Toyo Carp of 21st May 2022. On this event the Daily Shincho run an article based on a negative viewpoint. In this occasion we examine a problem a discussion of Mr. Neo's appearance as a pitcher.

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