「プーチン大統領の対独戦勝記念日演説」はいかなる意味を持つか

昨日、ロシアの首都モスクワで第2次世界大戦における対ドイツ戦勝記念日の祝賀行事が行われ、プーチン大統領が演説の中でウクライナへの侵攻を「唯一の正しい決定だった」とする一方、具体的な戦果や「戦争状態」の宣言はありませんでした[1]。

前者についてはすでに予想された内容であるだけに、ある意味でロシア側としても演説の中に織り込むのは当然の措置であったと言えるでしょう。

一方で、後者については各国が戦争状態を宣言するという観測があったもののロシア政府が一貫して否定していたこと[1]を考えれば、ロシア側が国際社会の動向を注視し、過度に刺激的な対応を控えたことが推察されます。

確かに、2月24日の侵攻開始以来、短期間でウクライナの首都キーウ(キエフ)を制圧するという計画に従って軍事作戦を行いつつ、依然として実現していないことを考えれば、プーチン大統領が演説の中で誇示するだけの成果に乏しいことが分かります。

また、北大西洋条約機構(NATO)によるウクライナへの軍事支援を非難しつつ、4月24日(日)の大統領選挙に当選したフランスのマクロン大統領に祝電を送ったり[2]、ポーランドとブルガリアへの天然ガスの供給を停止するものの独仏への提供は継続する点も見逃せません。

こうしたロシアの対応は、一面ではNATO内の分断を図る措置であり、他面においてはEU統合の推進役でありつつもNATOの中では独自色を発揮したいフランスや、エネルギー供給の点でロシアに高度に依存し、シュタインマイヤー大統領が外相時代に親ロシア政策を推進したドイツなどを事態の打開のための仲介役にしようとする思惑があることを示唆します。

しかし、米欧によるウクライナへの武器や軍事情報の提供が進むのに対し、ロシア軍に兵力や武器の消耗や士気の低下が生じていること[3]は、戦闘の膠着と、状況の早期の収集の困難さを思わせます。

それだけに、米独を含むいずれかの国の仲介が実現するのか否か、あるいはロシア側に大幅な譲歩をする覚悟があるのか、さらにウクライナがどこまで戦線を維持できるのか、今後の動向はますます予断を許さないと言えるでしょう。

[1]プーチン氏、侵攻正当化. 日本経済新聞, 2022年5月10日朝刊1面.
[2]仏大統領再選 プーチン氏が祝電. 読売新聞, 2022年4月26日朝刊9面.
[3]時代錯誤の帝国主義. 日本経済新聞, 2022年5月10日朝刊13面.

<Executive Summary>
What Is a Meaning of Russian President Putin's Victory Day Speech? (Yusuke Suzumura)

On 9th May 2022, the Victory Day Ceremony was held at Moscow and Russian President Putin made his speech for the ceremonial day. In this occasion we examine a meaning of President Putin's speech concerned with the Russo-Ukrainian War.

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