「マイナ保険証の利用促進」はいかなる問題を持つか

政府は今年6月にまとめる経済財政運営の指針である「骨太の方針」に、いわゆるマイナンバーカードと健康保険証の機能を併せ持つ「マイナ保険証」の利用を促し、将来的には現行の健康保険証の原則廃止を目指す方針を明記する方向で検討に入りました[1]。

「マイナ保険証」の推進は、政府のデジタルトランスフォーメーション(DX)政策の一環で、デジタル技術により医療や介護分野の改革を目指し、2023年度から医療機関や薬局に「マイナ保険証」が利用できる機器の導入を義務付けることが想定されています[2]。

確かに、電子政府の推進が唱えられつつも種々の施策の実施が遅滞し、迅速な行政事務の実現を妨げていることは、例えば新型コロナウイルス感染症対策関連の政府や各自治体の取り組みからも明らかです。

そのため、DX政策という新しい看板を掲げて「マイナ保険証」の利用を促進しようとするのは、ある意味で妥当な考えのように思われます。

一方で、現時点で「マイナ保険証」の読み取り機器を申請する医療機関は全施設の約58%に達しているものの、機器の配布が完了し、実際に利用できる施設は全体の約19%に留まっていることは、制度の設計と普及との間の齟齬、あるいは計画が実態に追いつていないことを示唆します。

今回の方針では、健康保険組合などの保険者が保険証の発行を希望する場合は「マイナ保険証」に代わり従来の保険証を利用できる仕組みも2024年度に導入される計画ではあるものの[1]、機器の導入の遅れによって少なからぬ人たちが「マイナ保険証」を利用できない可能性があることを考えれば、画一的な措置は大きな不利益をもたらしかねません。

何より、一連の取り組みが「税と社会保障の一体化」というマイナンバーカード制度の導入時の理念から乖離し、制度そのものの運用にのみ注目が集まることは、本来の趣旨に背くものです。

それだけに、DX政策といった点にのみとらわれず、「マイナ保険証」が利用者の便益の向上に資するか否かという側面から真摯な議論がなされることが期待されます。

[1]「人への投資」前面に. 日本経済新聞, 2022年5月24日朝刊5面.
[2]マイナ推進、保険証廃止へ. 毎日新聞, 2022年5月24日朝刊22面.

<Executive Summary>
What Is an Important Attitude for the Authorities to Examine the "Social Security and Tax Number System Card Issue"? (Yusuke Suzumura)

It is reported that Social Security and Tax Number System Card as a Health Insurance Card will be introduced in the fiscal year 2023. In this occasion we examine a meaning of the policy to apply the Social Security and Tax Number System Card as a Health Insurance Card.

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