「戸籍氏名への読み仮名導入」は裁量行政の余地を排し簡素な仕組みにせよ

昨日、法務大臣の諮問機関である法制審議会の戸籍法部会が戸籍法改正の中間試案をまとめ、戸籍の氏名には漢字しか記載されていない現状を改め、新たに読み仮名を記すことについて3つの案を提示しました[1]。

案として挙げられたのは、以下の3項です[1]。

(1)規定を設けず公序良俗や権利に反しない限り認める
(2)漢字の慣用的な読み方か字義との関連性があれば認める
(3)字義との関連に加え、パスポートに記載済みなど既に社会的に通用していれば認める

現在の対応を踏襲するのが(1)、最も厳密な措置が(2)、そして折衷案が(3)となります。

今回法制審議会がこうした措置の導入を検討するのは、現行の制度では氏名の読み仮名に関する法律の定めがない一方、法的な根拠を持たせることで行政の電子化を一層推進させるという目的があります[1]。

確かに、行政事務の簡素化という点では、戸籍に読み仮名を記載するよう制度を整備することは重要な取り組みであると言えるでしょう。

しかし、規制案の(2)や(3)は、漢字そのものの多義性や『和名類聚抄』のような古典に象徴的に示されている和訓の多様さを考えるだけでも、実効性に乏しく、実践的でないことが分かります。

あるいは、今回の規制案の背景にあるいわゆる「キラキラネーム」についても、注意が必要です。

すなわち、漢字に独自の読み方を与える「キラキラネーム」は決して20世紀末からの現象ではなく、例えば嵯峨源氏の一字名を見るだけでも時代ごとに特徴的な読み方という意味での「キラキラネーム」があることに気づかされます。

その意味で、規制案の(2)や(3)は漢字の多義性を等閑視し、かえって裁量行政の余地を広げかねないものです。

従って、求められるのは「どこまで認めるか」という議論ではなく、漢字というものの持つ多様な性格を踏まえた、必要最低限の枠組みの構築なのです。

[1]戸籍氏名に読み仮名. 日本経済新聞, 2022年5月18日朝刊34面.

<Executive Summary>
Introducing New Framework of the Acceptable Range of Unusual Names Shall Exclude a Margin of a Discretionary Administration (Yusuke Suzumura)

A subcommittee of an Advisory Body to Japan's Justice Minister has been discussing rules for a new system to incorporate phonetic characters to assist reading kanji names in family registers of Japan and has presented three proposals regarding the extent of the acceptable range of unusual names on 17th May 2022. In this occasion we examine the desirable and practical proposal to introduce a new framework without a discretionary administration.

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