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児童養護施設退所後のアフターケアは?現状と課題について

児童養護施設や里親家庭で18歳を迎えた若者のその後を大きく分けると、

  1. 家庭復帰・・・親や親戚のいる家に戻る

  2. 措置延長・・・そのまま施設等で生活

  3. 社会的自立・・・社会に出て一人暮らし

という3つに分かれます。
しかしながら、家庭に戻ったからと言って安心できるわけではなく、
また、措置延長になったとしても、一生涯施設で暮らすこともできません。
いずれの道も社会的養護の内側から外側に移った若者たちにとっては困難と苦労がついて回ります。


1.家庭復帰

施設に入所する原因となった問題が改善されると、家庭復帰が可能です。
2020年のブリッジフォースマイルの調査によると、進学した子どものうちの12.0%、就職した子どもの12.6%が、実親の元に帰っています。

入所から家庭復帰までのフロー

親が虐待を行なっていた場合を想定して、考えてみましょう。

1.事前準備

  • 家族との連絡再開:家族との関係修復が重要です。児童相談所で行われる虐待カウンセリングや家族セラピーなどを通じて家族の理解促進とサポートを行います。

  • 家族訪問:児童福祉司や施設職員が定期的に家庭訪問をして、子どもが戻ることができる環境かどうかを評価します。

2.評価と計画作成

  • 子どもの評価:心理的、情緒的、学業的な状態を評価し、必要なサポートを特定します。

  • 家族の評価:家族の準備状態、生活環境、経済状況などを評価します。

  • 家庭復帰計画の作成:関係者(施設職員、ソーシャルワーカー、カウンセラー、家族)と共に家庭復帰の具体的なプランを作成します。

3.移行支援

  • 面会:施設入所中の子どもと親権者の面会。最初は施設職員や児童福祉司も同席し、年に数回程度の面会からスタートします。
    ※親権者が虐待したことを認め、当人の口から謝罪があるかどうかが次のステップに進む鍵です。

  • 外出:面会が順調に進むと、子どもと親権者が外出して食事をする機会などを設けます。

  • トライアルホームステイ(外泊):親権者の家に宿泊する短期間のホームステイを行い、子供と家族が新しい環境に慣れる機会を提供します。家庭復帰間近になると、1カ月ほど外泊することも。

  • 定期的なフォローアップ:ソーシャルワーカーが定期的に家庭を訪問し、進捗を確認し、必要なサポートを提供します。問題なければそのまま家庭復帰します。

4.正式な家庭復帰

  • 継続的なサポート:正式に家庭に復帰した後も、継続的にカウンセリングや支援を提供し、問題が発生した場合には迅速に対応します。

  • 教育・就労支援:子供の教育や就労のサポートを行い、自立を支援します。

以上が、簡単な家庭復帰の流れになります。
子どもと家族双方の状況を鑑みながら、慎重に工程を重ねていることが分かりますね。

家庭復帰後も一筋縄には行かない

「子は親を真似て育つ」と言いますが、
虐待を受けていた子どもが家庭復帰すると
今度は子どもが親に暴力を振るうケースもあります。

また、親が就職した子どもに親が経済的に依存したり、
結局親との折り合いがつかず、
家庭復帰後に家を出てしまう若者も少なくありません。

中々「親元に戻ったから大丈夫」というわけにはいかないですね…。

家庭復帰が困難なケースも

そもそも、多くの若者が家庭復帰できるわけではありません。
児童養護施設に入所している児童は、
児童相談所に相談があった児童の約3割ほどです。
つまり、虐待が深刻なケースが多いため、関係修復は容易ではありません。

子どもが親と関わるのを拒否するケースのほか、
単純に親が虐待の事実を受け入れないこともあります。
入所から家庭復帰までのフローで紹介した通り、
家庭復帰の初めの一歩は、親権者が虐待を認め謝罪すること。
それが出来ない限り、子どもが家庭に戻ることはあり得ません。

措置変更

措置変更とは、入所していた施設等から別の施設に行くことです。
特に15歳以上の施設退所者が最も多く移動する施設が「自立援助ホーム」です。

自立援助ホームへの移動

自立援助ホームは、15歳から入所可能な施設で、社会的自立を目指すための支援を提供し、仕事や生活のスキルを学ぶ場所です。
施設によって異なりますが、自身の収入から寮費(居住費、食費、光熱費)を毎月3万~5万程度支払わなくてはなりません。

ただし収入が少ない場合は、生活保護や児童福祉法に基づく支援、奨学金、助成金を寮費や生活費に充てることもできます。

障害を持つ児童たちの行き場所

障がいを持つ場合は、児童養護施設を退所後に障害者のグループホームなどに行くこともあります。
一般的に18歳になると児童養護施設などの「児童福祉」から「障害者福祉」に支援の枠組みが引き継がれるのです。

ただ、グループホームに行った子どもの中にも、ルールが厳しすぎるなどの理由でグループホームを出てしまい、一人暮らしを始める子どももいます。

やむを得ない措置変更も

児童養護施設を問題なく穏やかに退所できないケースもあります。
暴力行為や児童同士の権利侵害が起こった場合です。
その時はやむを得ず措置変更を実施することがあり、問題行動の矯正や再発防止のために児童自立支援施設という施設に移動することが大半です。

また移動経験が増えれば増えるほど、本人の施設職員や大人に対する不信感は募るばかり。
別の施設に移動しても、同様の問題行動がすぐになくなることは難しいです。

社会的自立

進学や就職をして、アパートで一人暮らしをすることを社会的自立と言います。

住まいの課題

部屋を借りるときには、保証人が求められます。
親がいれば、親が保証人になったりしますが、施設を退所した子どもたちの場合は、それまで暮らしていた児童養護施設の施設長や里親が保証人になることが大半です。

ブリッジフォースマイルの調査によると、2020年春に高校や特別支援学校などを卒業して巣立った子どものうち、進学する子どもの55.6%が一人暮らしをしています。

また、就職した子どもの39.8%が一人暮らし、26.0%が勤務先の社員寮やシェアハウスなどで共同生活をしています。

社員寮を選び、生活基盤が崩壊

彼らは金銭的な理由から、就職先の選定に、社員寮があるかどうかを基準にすることが多いです。

しかしそういった場合、劣悪な環境・待遇のことや、そもそも職種や社風を基準にしていないことで本人と職業のミスマッチが起きているケースが多く、離職と同時に住居も失っています。
このようにして、あっと言う間に生活基盤が崩れてしまうのです。

仕事と住まいが一体化していることによる負のループ

経済的な自立が必須

このように、社会的自立をするためには、施設に入所している時から自立に向けた金銭的な準備をしてこそ自立に向けた順調な滑り出しができると言っても過言ではないでしょう。

また国や自治体から、児童養護施設や里親家庭などから退所・退去して自立を目指す若者に対して支給される「自立支度金」もありますが、一般的には初期費用として一度支給されるので、そういった制度を活用することも可能です。

しかし、事前準備や国等の支援金があったとしても、結局は本人の金銭管理スキルが培われていなければどこかで生活基盤が崩れてしまう可能性は大いにあります。

おわりに

児童養護施設に入っている間よりも、そこを退所してからの暮らしに苦労する若者が多くいる実情があります。
施設も一度退所してしまえば、自分が住んでいた部屋には別の児童が住み、職員たちも日々の業務に追われ、退所者の細やかなアフターケアまで手が回らないのが現実だと思います。

夢の宝箱はそういった若者を救援するNPO法人です。
彼らに助けの手を差し伸べるまでは行かなくとも、最後の砦となるような機能を果たす個人・団体・地域の活動は、今後さらに必要になってくるのではないでしょうか。


◆取材・編集
中村愛 - Ai Nakamura
青山学院大学経済学部卒業。新卒で医療福祉施設のM&A担当として新規施設の開所に携わる。その後児童福祉施設の支援員、タウンニュース編集記者を経て福祉業界に特化したフリーライターに。NPO法人夢の宝箱の広報担当。
Xアカウント ☞ https://x.com/love_chanchanch

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