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その日、呼吸を始めた
生まれた時のことなんてもちろん覚えているわけはなくて、気が付いたらこの世界で息をし、物を見、声を聞いていた。
両親と妹が一人。父は説明に困るくらい普通のサラリーマンで、母は色んな仕事を転々とする仕事人間。ごく普通の家庭だった。
子供の時の記憶はほとんどない。0歳から小学校に上がるまで、いや、中学校の時のことも、高校生の時のことも、あまり覚えていない。10歳まで住んでいた家の間取りも、高校の時の自
おわりのはじまり -おわりのはじまり①-
ヨシムラさんと過ごす日常は、とても美しい日々だった。世界がトキメキとイロドリに満ちていていた。時折、私の自信のなさからくる心の陰がそのイロドリを滲ませることはあったけれど、それすら今思えば絶妙なコントラストになっていた。
その時期、私はとても、とても幸せだったと思う。
「おわりのはじまり」が訪れるその日までは。
ヨシムラさんは飲み会の後お連れさまと一緒に我が研究会に入ることになった。週に一度水
おわりのはじまり -はじまりのはじまり-
19歳、私はある人に恋をした。それはあまりにも若くて、幼くて、儚い恋だった。
私はその恋によって、たくさんのものを手に入れた。例えば哲学とか、人間味とか、失望とか。
そしてたくさんのものを失った。自信とか、大学生活のほとんど大半とか、単位とかだ。
本当に長くて辛い恋だったけど、今の私はその恋があったからこそ形成されている。だからそれは、私にとって全ての「はじまり」の恋だった。
穏やかな春の陽気