#長編小説
小説『衝撃の片想い』シンプル版【第四話】②
【弱くなった】
◆
――ゆう子
左手のリングを見て話しかける。
「はい。見てます。すばる銀行の友哉さん」
すぐに返答がきた。
今日は父親の介護に行くと言って、「介護と言っても顔を見るだけだから、AZから銀行の様子を見る」と、ゆう子は言っていた。
通信の反応が早いが、お父さんの世話はしていないのだろうか、と友哉はふと思う。だが、気を取り直して、
『妙な奴はいないか』
と、真剣な口調で訊いた。
「
小説『衝撃の片想い』シンプル版【第四話】①
【すばる銀行の花、利恵】
◆
日本最大手のすばる銀行本店の駐車場に、佐々木友哉がポルシェ718ボクスターを停めた。
――高い買い物をしたもんだ。
友哉はポルシェを買った直後に、公園で娘と遊んでいて、暴走する車に跳ねられた。
車の運転手は運転中に心不全で死んでいて、友哉は、公園から道に飛び出した娘の晴香を助けたのだった。
それ以来、一年以上、新作は書いていないから、生活が心配になっていた。
――
小説『衝撃の片想い』シンプル版【第三話】②
【透明な女――その名は涼子】
◆
成田空港から横浜の自宅マンションに一回戻った友哉は、着替えや電気カミソリなど男の生活必需品だけを鞄に詰めて、新宿の奥原ゆう子のマシンョンに行った。
それにしても疲れがひどかった。旅行の疲れとは違い、まるで寿命がきたような恐怖を伴う疲れだ。
ーー極度の鬱だみたいだ。奥原がスキンシップをしてくれなかったら、どうなってたんだ。本当に女が傍にいないとまずい薬だったのか
小説『衝撃の片想い』シンプル版【第三話】①
【人間の本質は偽善】
◆
皇居と国会議事堂を監視するかのような場所にある警視庁。
公安部、外事四課。
「桜井警部補。ちょっと……」
課のデスクに座っていた桜井真一は、若い部下に呼ばれ、会議室の中に入った。
どこか蛙に似た顔の五十歳くらいの長身の男だ。
「佐々木時の件、何か分かったのか、大輔」
新米の伊藤大輔は、テーブルの上に数枚の写真を並べた。
「これが監視カメラに映っていた佐々木時」
「もう
小説『衝撃の片想い』シンプル版【第二話】⑨
【三年間の記憶】
◆
サンドイッチがきた。
客室係りがコンシェルジュを兼ねているのか、ルームサービスを頼んだだけなのに、「日本人が好む食べ物を買ってきましょうか」と尋ねられた。ゆう子はやんわりとそれを断り、空港までのタクシーの件だけを告げた。
「結局、一泊?」
「ヤバいから帰りましょ」
「店の防犯カメラとかの映像は」
「今、消してる」
せかされたからか、ゆう子は真顔で友哉を睨み付け、AZを操作
小説『衝撃の片想い』シンプル版【第二話】⑧
【本当の恋人】
◆
「ルームサービスで部屋に入ってくる女性は、レベル1だから安心してください」
ゆう子はAZを触って、そう教えたが、こっそり『原因』ボタンで、友哉のPTSDについて調べていた。
――病院の水着の写真は誰のこと?
入力で「水着の写真」と入れて、さらにAZに問いかけるように訊く。口には出さない。頭の中で話しかける。
『相手の女性のプライバシーに関わることで答えられません』
――天井
小説『衝撃の片想い』シンプル版 【第一話】⑧
【病気を治す神秘の光『Marie』】
「友哉さんが、テロリストと戦っても誰か分からないようにする作戦も練ってあります。AZには高度な技術からくだらないマニュアルまでなんでも入っています」
「くだらないマニュアルって」
ゆう子は少しはにかんだ。
「友哉さんの女性の服装の好み、下着の好み、セックスのプレイの好み。…データに入ってます。分かるそうです。下着の好み……薄い色のを持ってきましたよ」
「洋服
小説『衝撃の片想い』シンプル版 【第一話】③
【美人秘書の名は、女優、奥原ゆう子】
◆
――あの自称未来人がきてから、もう一ヶ月か…
成田空港のフロアの一角に、新型メルセデスベンツが展示してあった。友哉が最新型の銀色のベンツを眺めていると、
「先生。佐々木先生」
女に声をかけられる。テレビにも出ていないしネットにもあまり顔は出していないから、友哉には、彼女が読者ではないと分かった。
成田空港に女がやってくることはトキから聞いていた。
小説『衝撃の片想い』シンプル版 【第一話】②
【愛する女はいない】
◆
トキが言葉を失っていると、
「何をびびってるんだ。まあ、いいよ。何者か知らないが、君が考えていることはだいたい分かってきた。だが、軽くなったモデルガンのことが分からない。こいつは喋らないしな」
と言う。それほど自慢げではなく、どこか自虐的だ。
「その観察力で愛され、嫌われてきた」
トキが友哉をじっと見つめた。トキは落ち着ている。
「俺の過去を知ってますアピールはもうい