小室ぺい

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連作30首「水際族」

襟足を尾鰭みたいになびかせて雨をよろこぶ人と歩いた 幽霊とサカナと秘密警察がうたっておどりだす梅雨祭り 限りなく透明に近いターコイズ 私は愛の秀才になる 青い服…

小室ぺい
46分前

短歌研究新人賞2024応募作「ランビック」

『ランビック』 ランビックビールの香りあかいろの猫を心のうちのみに飼う うらがわの心地に眠る余所ゆきのつもりで買ったパーカーのボア 淋しさは海底にさすひとすじの…

小室ぺい
8日前
6

連作30首「まっすぐまがる」

川がなぜそこで左に曲がるのか君は教えてくれようとする 液晶に囚われている歌姫を連れ出せたならバイクにのせて 条約はどこか遠くで結ばれて利き手ではない手をつなぎ合…

小室ぺい
2か月前
5

連作31首「live alone」

加速する電車のドアはわずかだけ開いてる そこへ のぞむ 世界を ずれていた眼鏡をなおす水平をエンドロールでなじませてゆく それぞれがアンビエントのアルバムをきき…

小室ぺい
4か月前
4

連作30首「World History Record」

灰色の距離を抱けばあなたとは神聖ローマ帝国の愛 英雄はいつも遅れてやってくる 砂漠に雪が降らないように 懸命に牛をみがいていた 星を助けるために他はなかった 海…

小室ぺい
7か月前
4

連作31首「街角くらぶ」

銀杏降る通りをはさむ向かいにてパーマネントをあてている指 寝台車行き去りし後の草原をひとりでに鳴る鉄琴ありて 終電後連弾せむと水母らはストリートピアノに列をなす…

小室ぺい
8か月前
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I'll Never Cry (from tomorrow)というアルバムについて #10 "halo sunshine"

最後の曲、halo sunshine。 アルバムを出して十日ほど経った。 これからワンマンやツアーもやってたくさん見えてくる景色もあるだろう。 それでもバンドをやり始めた一番…

小室ぺい
1年前
2

I'll Never Cry (from tomorrow)というアルバムについて #9 "adorable"

9曲目、アドラブル。 他の曲の歌詞にも出てくるがこの時の自分はやたらと「ポケット」にこだわっていた。今では鞄を持って出かけるようになったが、当時はすべてをポケッ…

小室ぺい
1年前
1

I'll Never Cry (from tomorrow)というアルバムについて #8 "*asterisk*"

8曲目、アスタリスク。 この曲はアルバムにおいて一番最後に完成した曲。 一番アレンジが難航したかもしれない。 タイトルや構成や歌詞やらがかなり転々としたことを記憶…

小室ぺい
1年前

I'll Never Cry (from tomorrow)というアルバムについて #7 "homerun!"

7曲目。ホームラン。 もうかなり昔の話になるが5年前、前作のアルバム『マシン・ザ・ヤング』を作り終えたとき、自分が曲を作るということは今後ないだろうと思っていた。…

小室ぺい
1年前

I'll Never Cry (from tomorrow)というアルバムについて #6 "white heaven"

折り返し。ホワイトヘブン。 この曲でアルバムは一気に切実なモードに切り替わる。それまで盛大にひらかれていたものたちが一気に胸元へと距離を縮める。 歌詞は平日の昼…

小室ぺい
1年前
3

I'll Never Cry (from tomorrow)というアルバムについて #5 "my pollinosis (emerald candy)"

今日は5曲目 "my pollinosis (emerald candy)"について。 この曲は色々な意味でバンドの中では珍しいタイプになっていると思う。はじめてスタジオで合わせた時に「この曲…

小室ぺい
1年前

I'll Never Cry (from tomorrow)というアルバムについて #4 "Departure"

4曲目はデパーチャー。 NITRODAYの1st『マシン・ザ・ヤング』のリリースは2018年だ。その次となる今作までにどうしてこれほどの期間が空いてしまったかというとつまるとこ…

小室ぺい
1年前
1

I'll Never Cry (from tomorrow)というアルバムについて #3 "sea/son"

3曲目はシーズン。 音楽をやる上でジャンルに内包されてしまっては終わりだ。その時点で他との替えがきく存在となってしまう。大切なのは常にその枠をやぶろうとし続ける…

小室ぺい
1年前
2

I'll Never Cry (from tomorrow)というアルバムについて #2 "~milky way wishes~"

2曲目 "~milky way wishes~"について。 この曲はイントロのベースリフからできたことを覚えている。このパターンはバンドの楽曲の中では珍しい方だ。基本的にまず弾き語り…

小室ぺい
1年前
3

I'll Never Cry (from tomorrow)というアルバムについて #1 "cobalt strike"

はじめに。 まずは無事NITRODAYというバンドがあらためて5年振りに2ndアルバムを出せることへのありがとうを皆様に。 そしてせっかくの機会なのでバンドや曲に関する様々…

小室ぺい
1年前
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連作30首「水際族」

連作30首「水際族」

襟足を尾鰭みたいになびかせて雨をよろこぶ人と歩いた

幽霊とサカナと秘密警察がうたっておどりだす梅雨祭り

限りなく透明に近いターコイズ 私は愛の秀才になる

青い服だけが行き交うある街をずっと眺めていた曇りの日

呼ばれても夕陽に黒く染められて水際族として生きていく

将来はうお座になりたい 天井の泡をシャワーで洗い流した

水中で本をひらけば文字たちは魚群のように頁を去った

梅雨なのに雨の降

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短歌研究新人賞2024応募作「ランビック」

短歌研究新人賞2024応募作「ランビック」

『ランビック』

ランビックビールの香りあかいろの猫を心のうちのみに飼う

うらがわの心地に眠る余所ゆきのつもりで買ったパーカーのボア

淋しさは海底にさすひとすじの傷跡だろう 誰の指だろう

五線譜を眺める人の上空に誰にもさわれない国はある

黒鍵の痛みに触れるときの音しずかな夜にいっそう響く

歯肉炎とろけるようにいたむんだうまくわらえているかふあんだ

杉の花は街を黄金に染めあげて会話を攫う

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連作30首「まっすぐまがる」

連作30首「まっすぐまがる」

川がなぜそこで左に曲がるのか君は教えてくれようとする

液晶に囚われている歌姫を連れ出せたならバイクにのせて

条約はどこか遠くで結ばれて利き手ではない手をつなぎ合う

まっすぐに歩ける今日も透明な犬が私を引っ張っていく

唇の皮をめくって春の風 生きていたさを言いそびれない

夜道から生まれた君は目がよくてひとつも愛せないものはない

不可思議な昼寝の果てに行き着いた改札のない駅で眠った

どう

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連作31首「live alone」

連作31首「live alone」

加速する電車のドアはわずかだけ開いてる そこへ のぞむ 世界を

ずれていた眼鏡をなおす水平をエンドロールでなじませてゆく

それぞれがアンビエントのアルバムをきき流すよう日々は過ぎゆく

鍵穴に挿しこむ音は懐かしく僕の孤独を笑わせている

計算機片手に眠るそれぞれのボタンの奥にひそむ電流

吊革に種々の果実を嵌め込んで乗客のない始発を降りる

照れながら僕らは同じ方角を システマティック・シネマ

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連作30首「World History Record」

連作30首「World History Record」

灰色の距離を抱けばあなたとは神聖ローマ帝国の愛

英雄はいつも遅れてやってくる 砂漠に雪が降らないように

懸命に牛をみがいていた 星を助けるために他はなかった

海よりもやるせないのは心臓が他人の心臓を食べるそのこと

海馬、海驢、海象、海豹らから成る干支があってもいいような雨夜

何千年勘違いしているんだろう眼窩を泳ぐアンモナイトは

王妃なら甘い涙で泣いていた パンがないならケーキで拭いた

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連作31首「街角くらぶ」

連作31首「街角くらぶ」

銀杏降る通りをはさむ向かいにてパーマネントをあてている指

寝台車行き去りし後の草原をひとりでに鳴る鉄琴ありて

終電後連弾せむと水母らはストリートピアノに列をなすなり

くらやみにぬるみゆく湯を抱きかかえ電気ケトルは仮眠の最中

十月の電車を降りて冬を嗅ぐクリアクリーンきれていたっけ

紙袋抱えて歩く中華街 なかの鼬はよく眠りたる

JR東日本は入り乱れ鎖骨の上を歩くしかない

雨がほおをうった

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I'll Never Cry (from tomorrow)というアルバムについて #10 "halo sunshine"

I'll Never Cry (from tomorrow)というアルバムについて #10 "halo sunshine"

最後の曲、halo sunshine。

アルバムを出して十日ほど経った。
これからワンマンやツアーもやってたくさん見えてくる景色もあるだろう。
それでもバンドをやり始めた一番最初から今日までを通してひとつ結論を出しておきたい。

生きていくということは光を見つけることだ。
目をこらして、手を伸ばして、その先にあるもの。
だからこそ、明日には泣き止んでいてほしい。
明日からは絶対に泣かないという強

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I'll Never Cry (from tomorrow)というアルバムについて #9 "adorable"

I'll Never Cry (from tomorrow)というアルバムについて #9 "adorable"

9曲目、アドラブル。

他の曲の歌詞にも出てくるがこの時の自分はやたらと「ポケット」にこだわっていた。今では鞄を持って出かけるようになったが、当時はすべてをポケットの中におさめようとしていた。財布や携帯はもちろん、文庫本や道すがら買ったペットボトル、果てはフルーツなどありとあらゆるものを詰め込んだ。

ポケットの中とカバンの中では感覚が大きく違う。ポケットの方が圧倒的に自分の内側に存在するように思

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I'll Never Cry (from tomorrow)というアルバムについて #8 "*asterisk*"

I'll Never Cry (from tomorrow)というアルバムについて #8 "*asterisk*"

8曲目、アスタリスク。

この曲はアルバムにおいて一番最後に完成した曲。
一番アレンジが難航したかもしれない。
タイトルや構成や歌詞やらがかなり転々としたことを記憶している。
このアルバムを作っていく際につよく意識したのは各曲の独立性だ。どうしても同じ編成で、極端に幅のある音作りをするというわけではないバンドだからこそ、作曲の段階で同じ印象を与えてしまう可能性をなるべく排除した。

だからこの曲の

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I'll Never Cry (from tomorrow)というアルバムについて #7 "homerun!"

I'll Never Cry (from tomorrow)というアルバムについて #7 "homerun!"

7曲目。ホームラン。

もうかなり昔の話になるが5年前、前作のアルバム『マシン・ザ・ヤング』を作り終えたとき、自分が曲を作るということは今後ないだろうと思っていた。
それだけ一枚に懸けていたということだし、短絡的だったとも言える。けれどもその次を見せてくれたのがこのホームランだ。このアルバムのスタート地点と言ってもいい。ずっと水の中でもがき苦しんでいたところを大空へと引っ張り上げてくれた。
だがそ

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I'll Never Cry (from tomorrow)というアルバムについて #6 "white heaven"

I'll Never Cry (from tomorrow)というアルバムについて #6 "white heaven"

折り返し。ホワイトヘブン。

この曲でアルバムは一気に切実なモードに切り替わる。それまで盛大にひらかれていたものたちが一気に胸元へと距離を縮める。

歌詞は平日の昼間の公園で書いた記憶がある。それこそ平日の昼間の公園というのは天国のようだ。ほぼ誰も姿を見せず、時々出会うのは毛むくじゃらな犬を連れた老人ばかり。そんなだから「あれ、自分生きてたっけ」とふと思ったりなんかする。
だけれど、生と死との距離

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I'll Never Cry (from tomorrow)というアルバムについて #5 "my pollinosis (emerald candy)"

I'll Never Cry (from tomorrow)というアルバムについて #5 "my pollinosis (emerald candy)"

今日は5曲目
"my pollinosis (emerald candy)"について。

この曲は色々な意味でバンドの中では珍しいタイプになっていると思う。はじめてスタジオで合わせた時に「この曲はNITRODAYのイメージには合わない」という意見も出た。サウンドに関していえば、昔から作曲をするときは90's US寄りの音を意識することが常だったが、この曲を機にその他の色々な音楽へもリファレンスが向

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I'll Never Cry (from tomorrow)というアルバムについて #4 "Departure"

I'll Never Cry (from tomorrow)というアルバムについて #4 "Departure"

4曲目はデパーチャー。

NITRODAYの1st『マシン・ザ・ヤング』のリリースは2018年だ。その次となる今作までにどうしてこれほどの期間が空いてしまったかというとつまるところ一点、歌でしかない。
この度、バンド音楽をやる上での肉体性というものを強く認識させられた。頭のなかでどれほど自由な音楽を描こうが結局はそれを再現できる喉、腕と手、あるいは全身が必要となる。
恥ずかしい話ではあるが当初スタ

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I'll Never Cry (from tomorrow)というアルバムについて #3 "sea/son"

I'll Never Cry (from tomorrow)というアルバムについて #3 "sea/son"

3曲目はシーズン。

音楽をやる上でジャンルに内包されてしまっては終わりだ。その時点で他との替えがきく存在となってしまう。大切なのは常にその枠をやぶろうとし続けることで、ハートへの引っかかりはそこに生まれるにちがいないと信じている。この曲ではそのようなもがきを感じとってもらえれば幸いだ。正直、まだまだ磨いていける部分だということもわかっている。好きな色の羽根を集め、いずれはかざぐるまとしてしっかり

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I'll Never Cry (from tomorrow)というアルバムについて #2 "~milky way wishes~"

I'll Never Cry (from tomorrow)というアルバムについて #2 "~milky way wishes~"

2曲目 "~milky way wishes~"について。

この曲はイントロのベースリフからできたことを覚えている。このパターンはバンドの楽曲の中では珍しい方だ。基本的にまず弾き語りで曲の骨格を作り、各パートはメンバーに任せている。今回のようにどうしても弾いて(叩いて)ほしいフレーズはスタジオで一緒にすり合わせる。

最近はスムーズに進むことの多い楽曲のアレンジだが、この曲は特にサビで難航したこ

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I'll Never Cry (from tomorrow)というアルバムについて #1 "cobalt strike"

I'll Never Cry (from tomorrow)というアルバムについて #1 "cobalt strike"

はじめに。

まずは無事NITRODAYというバンドがあらためて5年振りに2ndアルバムを出せることへのありがとうを皆様に。
そしてせっかくの機会なのでバンドや曲に関する様々なことをここに記したい。

今日は一曲目"cobalt strike"について。

この記録において何度か言及する予定だがアルバム楽曲の完成は遥か2〜3年ほど前である。
そして自分の実体験として思考は体験よりも記憶に残りにくい

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