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連作31首「live alone」

加速する電車のドアはわずかだけ開いてる そこへ のぞむ 世界を

ずれていた眼鏡をなおす水平をエンドロールでなじませてゆく

それぞれがアンビエントのアルバムをきき流すよう日々は過ぎゆく

鍵穴に挿しこむ音は懐かしく僕の孤独を笑わせている

計算機片手に眠るそれぞれのボタンの奥にひそむ電流

吊革に種々の果実を嵌め込んで乗客のない始発を降りる

照れながら僕らは同じ方角を システマティック・シネマフィル・ラブ

救急車に住んでる僕の叔父さんは街の痛みを想っては泣く

真夜中のエスカレーター飲みこめないことを代わりに飲みこんでくれ

親戚の睫毛は白く一族に庭のひろさに季は訪れる

靴底の冷えた音色で消えそうな全身の輪郭をたもって

心臓は外の世界を見たがって動悸によってそれを知らせる

あたたかに酔いはめぐって眼の縁に紅く二輪の花を咲かせる

ひょうじょうがぶつかりあってこわれたらこころはふたつとけてつながる

凍てついたボルトのような足を抱き溶かして眠る朝四時の中

薬局と花屋は似てる待つときの乾いたような湿度が似てる

イタリアンホラーのように僕のこと誰よりも分かっていてほしい

記念にと集めておいた半券は虹色のさみしさで燃えたよ

ばらばらになった星座を知っている 平日の夜の映画館の

強盗に入られる夢粉々の硝子の海をずっと見ていた

ありふれた半生なのか終電の窓に映った景色に揺られ

澱んでも怒っていても寝てみても時計回りに血は巡りゆく

区役所のきまりの中を風よりも速く吹き抜けていく野良猫

最低な気温のなかで吐く息と誰にも聞かせたくない言葉

金網を奏でて歩く鉄紺の夜に押しつぶされないように

指先でえがいた線のながき日は眠りの前に結び目を想う

孤独とは空手の型のようなもの 空手の型のように孤独を

ひさびさに風邪にかかって見る夢はずっとずっと望んでた海原

満月の真下にたどり着くことを少し信じていられた百歩

西日射す郵便局は友人のかおをわすれてしまうまぶしさ

蜂蜜を湯煎するので今すぐはむずかしいけど死から逃げたい





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