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連作31首「街角くらぶ」


銀杏降る通りをはさむ向かいにてパーマネントをあてている指

寝台車行き去りし後の草原をひとりでに鳴る鉄琴ありて

終電後連弾せむと水母らはストリートピアノに列をなすなり

くらやみにぬるみゆく湯を抱きかかえ電気ケトルは仮眠の最中

十月の電車を降りて冬を嗅ぐクリアクリーンきれていたっけ

紙袋抱えて歩く中華街 なかの鼬はよく眠りたる

JR東日本は入り乱れ鎖骨の上を歩くしかない

雨がほおをうった気がして見上げれば硝子の天井広がっている

ふろおらる満ちたるコインランドリー今火放たば白夜生まれむ

新築のマンション 繋ぐ手や指のあいだを砂がこぼれ落ちても

市場から少しはなれた街角で変名演奏するジャズバンド

肉体に浮かびし炎 慎重にティッシュ配りのそれを受け取る

ファミレスの壁に描かれた肖像の皺のしわまで見飽く戯れごと

ありあまるカレッジトレーナーの袖先で冬をつかんで踏切を待つ

まだ若いたましひを次々運び込めよ深夜営業のリサイクルショップへ

夕陽射す普通電車の片すみに教室の一角はつくられたりし

暖房がにじみ出る街 白昼夢というにはやや遅い時間だった

ターミナルへたった一人でくり出せばすべてが実写化の日曜日

手袋の宝石商がシャッターを下ろしつるもて真夜塗られゆく

垢づける猫屋の硝子曇らせて献立用のメモ呟けり

電球で 空 と描かれた駐車場を黒い天使が占拠を開始

窓際でひらく頁に影落ちて気の遠くなる枝毛のおおさ

夢深むわれの寝息をたしかめてモニター越しの来訪者去らむ

ネクタイはみるみるうちにメビウスの輪となり深く首を締め付け

くだらないものを食べてもくだらない気持ちになると閉店街で

停止したエレベーターで意味のない数字を眺めれば過重力

秒速で赤緑っていれかわる信号を震えながら待ってる

イヤホンの番いの群れが飛び回る新宿駅で虫かご持って

革張りのソファを広げどこまでもいつまでも眠りにつくための街

幽霊を信じていたい 初冬の換気のために開け放つ窓

くりぬいた南瓜をかぶり魔女の編む炎の色をのぞき見ていた

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