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神月裕
2020年7月29日 22:33
さて。ひとまず全話載せ終えた『やさいクエスト』、読んでくださった方どうもありがとうございます。 そもそもなんでそんな話書こうと思ったのかと問われたら『ネタが降ってきたから』としか答えようがなく。こう、おフロでシャワー浴びてるときに閃いた感じで。ピコーンと。 身近な野菜が喋って戦うファンタジー。シュールな世界観をできる限り大真面目に描いて、笑いと感動を得てもらえれば良し……ということで、内容的
2020年7月29日 14:41
XXI.終章「王様、お妃様の準備が整ったようでございます」 ある日の朝、城の召使いが寝室の扉を叩いた。「わかった。すぐに行くと伝えてくれ」 キャベツが新たな国王に即位し、はや数か月が過ぎた。まだまだ壮健な前国王トーガンの助言を仰ぎつつ、政は概ね順調に運んでいた。 キャベツは即位後すぐ、世界の歴史や『新天地』の真実、野菜たちの運命について国民に包み隠さず伝えていた。その上で、自らの主張を国
2020年7月27日 20:04
XX.第三章 夢のあとさき(4・第三章完)「見事でした、勇者キャベツ」「姫」 戦いの一部始終を見届けたキャーロット姫が、勝者となったキャベツの手を取った。「この戦いの顛末は全て、このキャーロットが我が父トーガンに伝えましょう」「お願い致します――あっ」 勢い余って姫の手を握り返してしまい、慌てて跪くキャベツ。そんなキャベツに姫は微笑して、つないだままの手をかかげた。畏まる必要はないと、
2020年7月25日 22:44
XIX.第三章 夢のあとさき(3) キャベツは気勢を保ったまま、一気に間合いを詰める。パプリカを一刀のもとに打ちのめした横薙ぎの剣は、しかしピーマンを捉えるまでには至らない。ピーマンは黒き剣でキャベツの一撃を受け止めると、すぐさま反撃に転じた。繰り出される鋭い突きに身を翻すキャベツ。紙一重、まさに紙一重のタイミングで、刃がキャベツの葉の一枚を掠めた。 ――強い! 流石に魔王を自称するだけのこ
2020年7月23日 19:36
XVIII.第三章 夢のあとさき(2)「ま、まさか!!」 日に当たれば、毒を。それ自体はキャベツも聞いたことがあった。そうして毒を作り出したジャガイモは、皮を剥いだ身の色が――そこまで思い出し、キャベツはジャガイモの欠けた半身を注視した。 ナーガ・ネギが抉った身の断面はイモ本来の淡い黄色ではなく緑色に、それも中心に近い部分までが変化していた。かなり多量のソラニン、つまりは毒が生成された証だ。
2020年7月22日 20:38
XVII.第三章 夢のあとさき(1) 翌日、二者は遅い朝食を済ませると、地図にない町を後にした。長く続いた線路の果て、ピーマンの居城まではもうどれほどもかからない。順調にいけば、日没までには到着の運びだ。「ジャガイモ、君はやはり、運命を変えたいと願うのか」「オレは――野菜として、植物としての生を全うしたい」「いずれ枯れるか腐るか、どちらかでも?」「それが自然というものだろう。キャベツは
2020年7月18日 21:13
XVI.第二章 未来のゆくえ(7・第二章完) 先に言葉を発したのはこちら側のジャガイモだ。やはりキャベツの知らぬ名だった。名前からすると女性だろうか。「ハッ。男爵家のボンボンが、よくここまで来られたもんだ」 イモとイモの視線がぶつかる。ジャガイモがそうであるように、彼女もまたジャガイモを快くは思っていないようだ。「――彼女は?」 キャベツとしてもこの女の素性、そして何よりイモ二人の因縁が気
2020年7月15日 20:37
XV.第二章 未来のゆくえ(6) 扉がゆっくりと開き、何者かが足音を殺しつつ侵入してくる。目標はやはり、ベッド。暗がりで姿ははっきりしないが、夜景のほのかな明かりを受けて時おり浮かぶシルエットはいびつで、闇色よりもなお暗かった。 侵入者は黒い、布のようなものを身に纏っていると理解したキャベツ。近づくにつれ、サイズの目算もついてきた。キャベツと比べれば明らかに小さい。どれくらいかと問われれば、そう
2020年7月9日 20:13
XIV.第二章 未来のゆくえ(5)「しまった、払えるものを持ってないぞ」 ホテルのロビーに到着したとほぼ同時に、ジャガイモが声を上げた。そういえばカブさんにスイカを渡して以降、水と食料、装備のほかには何も手にしていない。「ど、どうする? このホテル、ずいぶん高級そうだぞ」 キャベツは天を仰いだ。とても高く造られた天井から豪華なシャンデリアが下がり、屋内を煌びやかに照らしていた。視線を落とせ
2020年7月5日 19:16
XIII.第二章 未来のゆくえ(4) 呼吸を整えたところで、キャベツは聞いた。「うむ。ここからちょっと進んだところに、オアシスがあるのだ」「オアシス! よく見つけられたな」「いつだったか、オヤッサンからそんな話を聞いたのを思い出してな。線路沿いに、小さなオアシスがあると」 どのくらい進めば着くのか、までは聞いていなかったがと、ジャガイモは付け加えた。 彼はその存在だけを信じて、辿り着け
2020年6月19日 19:36
Ⅻ.第二章 未来のゆくえ(3) カブさんは不慣れなマントで身をくるむと、茸山トンネルの方へと引き返していった。その背が消えるまで見送ると、後には長く続く線路と傷ついた列車だけが残り、にわかに日差しが強まったかのようにさえ思われた。長閑な列車の旅が一転、ここから先は過酷の一途である。それでも、歩みを止めるわけにはいかない。 線路のお陰で道に迷わず進めるのがせめてもの救いだ。ひとたび方向感覚が狂えば
2020年6月8日 11:41
Ⅺ.第二章 未来のゆくえ(2) 国の南方に広がる渇きの砂漠、ここを越えれば新天地、そしてその手前に築かれたというピーマンの居城は目と鼻の先だ。旅は順調、二人を乗せたトロッコ列車は変わらぬ速度でレールの上を進み、砂漠を突っ切る―― と、思われた。しかし。「坊っちゃん! ジャガイモの坊っちゃん!」「どうした、何があった!」 突然、運転席のカブさんが悲鳴のような声を上げた。普段の様相からは想像で
2020年5月21日 21:46
Ⅹ.第二章 未来のゆくえ(1)「ピーマンはどうして、あの畑を襲ったのだろう」 古びたトロッコ列車は清々しい景色とさわやかな風を道連れにのんびりと線路の上を進み、くつろぐには最高の時間を提供してくれた。これが国の存亡を左右する旅のさなかでなければ、どれほどよかっただろう。 話題を口から出たままに任せ、雑談を始めたのはキャベツの方だ。列車の中では他にできることもない。「ああ――ピーマンもナス科だ
2020年5月13日 12:40
Ⅸ.第一章 希望をはこぶものたち(8・第一章完) 剣術の腕のほども、気心も知れている。ジャガイモが自分を誘う理由としては充分といえる。しかしジャガイモほどの男なら、彼だけでも目的は果たせるだろう。単なる敗者へのお情けで声をかけられたとも思えない。もともと、あの闘技大会に固執していたのはジャガイモの方だったからだ。民衆や国王に力を誇示するなら、仲間などいない方が都合が良いはずだのに。 キャベツが物