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やさいクエスト(第二十回)

XX.第三章 夢のあとさき(4・第三章完)

「見事でした、勇者キャベツ」
「姫」
 戦いの一部始終を見届けたキャーロット姫が、勝者となったキャベツの手を取った。
「この戦いの顛末は全て、このキャーロットが我が父トーガンに伝えましょう」
「お願い致します――あっ」
 勢い余って姫の手を握り返してしまい、慌てて跪くキャベツ。そんなキャベツに姫は微笑して、つないだままの手をかかげた。畏まる必要はないと、そう示しているのだ。
「あなたが望むなら、私はいつでもあなたの妃となりましょう」
 立ち上がり姿勢を正したキャベツに、姫は婚姻の意思を示した。単なる約束というのみならず、王となる資質を認められたということでもある。
 今まさにキャベツのいる位置に立とうと夢見ていた友のことを思うと、少しばかり胸が痛む。これからの重責を考えれば悩みも尽きないが、それでも。
「では――城に帰還ののち、僕から改めて求婚を」
 キャベツは、野菜千年王国の新たなる王となる覚悟を決めたのだ。
「安心しました。現国王トーガンも、世継ぎができ喜びますわ」
「では、早速帰路に――」
「勇者キャベツ、少々お待ちください」
 積もる話も多くあろう、そう思い帰りを促したキャベツを、姫が少しばかり引き留めた。姫は体の割れたピーマンの傍らにしゃがみ、その手に何かを握りこむ。
「姫、それは」
「種です」
 姫は、ピーマンの種のいくつかを拾っていた。
「ピーマンも、国の未来を憂いていたのに変わりはありません。間違った方法をとってしまったとはいえ――」
 思えばピーマンが魔王を名乗って以降、常にその傍らに位置していたのがキャーロット姫ではなかったか。ピーマンにも怖れや懊悩はあったはず。悩めるものに寄り添い苦しみを理解して、それ以上の暴走を抑えていたのは姫の慈しみではないか。
「――もう一度、種から天地の恵みを身に受ければ、違った芽吹きもあることでしょう」
「分かりました。畑には心当たりがあります。落ち着いたら、蒔きに行きましょう」

 こうして、勇者キャベツとキャーロット姫は魔王の城を後にした。残されていた二体の精霊馬を戦果に凱旋した英雄を、民は大きな歓喜と共に迎え、魔王ピーマン滅びる、及びシャーロット姫帰還せりとの報せはその日のうちに国中を駆け巡ったのである。

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