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有原野分
2021年5月15日 19:13
【小説セラピー】絶賛販売中!あなたの人生を一冊の小説(本)にしませんか?お申し込み、詳細はこちらから→https://ariharakobo.thebase.in/「星に願いを」(Mさんの物語) ベランダから夜空を見上げても、星は見えなかった。ただ、煙草の白い煙だけがゆらゆらと昇っていく。ふと、「女性の煙草は辞めてほしい」と彼氏の言葉を思い出して、私は煙草をもみ消した。 四十代半ば。
2021年2月14日 15:44
夜が怖かった。 明日も仕事があるというのに、妻と子供が寝たのを見届けると、ふと足元から不安や恐怖が込み上げてきて、全身の力が抜けていく感覚に襲われる。 原因はおそらく同僚からの相談だろう。 あいつは同期入社だった。出会った頃からお互いによきライバルとして切磋琢磨し、よく飲みに行った親友でもあった。 そんなあいつが、まさか鬱になって休職するなんて思いもよらなかった。しかも、もうすぐ結婚して
2021年2月3日 19:27
久しぶりの大阪遠征が決まって、私は思いのほか緊張していた。 コロナで舞台がことごとく中止になって、もうすぐ一年が経つ。私はその間、歯を食いしばってただ時間が流れるのを眺めていた。そして今、ようやく長い冬が終わりを迎えようとしていた。 私はお風呂上がりの火照った顔を鏡に向けて、ニコッと微笑んでみた。そこには演技ではない、目が笑っていない素の自分がいた。子供のころからどっぷりと浸かっていた芝居の
2021年1月17日 17:11
思えば、人生は船旅に似ている。 初めて乗った船は、まるで揺りかごのように私を優しく包み込みながら、この世界へと連れてきてくれた。大きくて、優しくて、だから私は安心して目を開けることができたんだと思う。 目の前の世界は、美しかった。 ただ、不思議なことに、私はここにいるのに、目の前の世界には私がいなかった。 だから私は耳を澄ました。 どこからか、私の声が聞こえないかと。 旅は始まったば
2021年1月11日 16:51
今だから言いますが、お父さん、私はあなたが嫌いでした。 あなたはひどい父親でした。確かに戦争が始まる前のあなたは父として、一家の長として、そして私たち兄弟の遊び相手として立派だったのかもしれません。職場では慕われ、近所からは一目置かれ、なにより私たち家族から愛されていました。 戦争があなたを変えたのでしょうか。 あなたは開戦以後、極端に塞ぎ込んでしまいました。誰の言葉にも耳を貸さず、まだ幼
2021年1月5日 18:19
木枯らしの風が私の耳を痛めつける。 仕事が終わり急いで家に帰ると、ポストにハガキが入っていた。「……同窓会か」 そこには年末にみんなで集まりませんか、と簡素な文書が印刷されているだけだった。小学校の同窓会に呼ばれたのは初めてだな、と思いながら私はそれを玄関のごみ箱に捨てた。「ただいま」 今年小学生になったばかりの娘が抱きついてくる。私はこの子が愛おしくて堪らない。「ねえ、ママ、どうか