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小説セラピー「星に願いを」(Mさんの物語)

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「星に願いを」(Mさんの物語)
 

 ベランダから夜空を見上げても、星は見えなかった。ただ、煙草の白い煙だけがゆらゆらと昇っていく。ふと、「女性の煙草は辞めてほしい」と彼氏の言葉を思い出して、私は煙草をもみ消した。
 四十代半ば。私は、人生の折り返し地点にさしかかった。部屋の中から愛猫の鳴き声が聞こえる。私は何度か大きく深呼吸をして、部屋に戻った。この子は、十年前に拾った捨て猫。誰かが赤ん坊だったこの子を捨てたのだ。私はこの子を抱きしめて、彼氏にどうでもいいラインを送ろうか迷い、辞めた。
 いったい、私たちはなぜ生まれてきたのだろうか。
 今の彼氏と同棲し始めてから五年、結婚の約束はどこ吹く風で、彼氏は今、転勤で東京に行ってしまった。私はまた一人ぼっち。窓の外は夜。ふと、元彼の顔が頭をよぎる。苦しい。私は元彼が書いていたブログを思い出し、何気なくスマホを開いた。そこには、チャップリンの名言が載っていて、私はドキッとした。

 Life is a tragedy when seen in close-up, but a comedy in long-shot.(人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ)

 思えば、私の人生はめちゃくちゃだった。
 両親は物心がついた頃から仲が悪かった。父は寡黙で、母は外に男を作り、家ではいつもイライラしていた。私は、いつも母の後ろをついて回った。できる限りの笑顔で。ただ、母に笑っていてほしいだけだった。そのために生きていた。しかし、私が四歳ぐらいの頃だったと思う。母は私にこう言った。
「あんたなんか、お腹の中で、死んでしまえばよかったのに」
 いまだに生きる意味が分からないのは、母のその言葉を、まだ飲み込めないでいるからかもしれない。幼かった私はひどくショックを受けて、その日から、なぜ私は生まれてきたのかを考えるようになった。
 私は果たして、本当に生まれてきてもよかったのだろうか。
 子供心に受けた傷は、他人に甘えるということを放棄させた。だから私は、今でも、人に頼れない。怖いのだ。断られるのが、拒否されるのが、自分という存在を否定されるのが。
 生きるという事は、難しい。
 私は高校を卒業するまで、お金は降ってくるものだと思っていた。欲しいものがあれば親が買ってくれる。バイトをしたこともあったけど、それは単に、周りのみんながしているからという浅い理由だった。ちょうどその頃、妹とダイエットを始めたのをきっかけに、私は負けてたまるかという思いからか、ご飯が食べられなくなっていき、拒食症になった。体重は落ちに落ち、ひどいときで三十四キロまで落ち、生理も止まる始末。
 私は、心が弱かった。
 受験のために、親戚の家に預けられたときは、出される食事を残してはいけないと思い、必死で食べているうちに、今度は止まらなくなり、過食症になった。思い出しても笑ってしまう。夜中、胃になにかを詰め込まなければ、安心して眠れなかった。苦しかった。吐くたびに涙が溢れた。
 助けて。その一言が、どうしても言えなかった。
 専門学校に無事受かり、私は単身大阪に出た。都会に出れば、すべてがよくなると思い、期待に胸を膨らませながら。
 初めての一人暮らし。一人の空間に、一人の世界。しかし、それがよくなかった。私の病気はエスカレートし、私は、半年で学校を辞めた。実家に戻る。のしかかる罪悪感。そうして私は、引きこもった。
 死にたい。毎日が真っ暗だった。私は自殺の真似事を繰り返すようになった。安全カミソリで手首をなでる。そう、安全カミソリ。死ねる訳もなく、死ぬつもりもなかった。ただ、誰かにかまってほしかった。心配してほしかった。甘えたかった。手首の傷を母に見せに行く。だけど、母は面倒くさそうな顔をするだけだった。
 私は、ただ、母に抱きしめて欲しかっただけなのだ。
 気がつけば、実家に引きこもってから、一年ぐらい経っていた。きっと私は、六十歳になっても、こうやって引きこもっている。そう思うと情けなくて、泣けてきた。迷惑をかけている自分が許せなくて、日に日に自分のことを嫌いになっていった。ある日、大好きだった祖父が倒れた。このままではいけない。私は、立ち上がる決心をした。
 やり直したい。ちょうど、妹が大阪で一人暮らしをしていたので、そこに転がり込む形で、私はもう一度大阪に出た。バイトを始めて、彼氏もできた。ようやく光が見えてきた時期だった。しかし、摂食障害は相変わらずで、彼氏とご飯に行っても、私はトイレに隠れて、吐いていた。その頃の私は、ご飯をどうやって食べていいのかが、もはや分からなくなっていた。
 生きるのは苦しい。食事の度に、吐いては涙を流し、そのストレスからか、私は買い物に依存していった。彼氏がお金を貸してほしいと言ってきたら、頼られているのが嬉しくて、貸した。お金は降ってくるもの。私は安易な気持ちで、消費者金融に手を出した。
 人生設計などあるはずもなく、お金の稼ぎ方も、大切さも分からないまま、煙草を覚え、お酒に溺れていき、その場しのぎで、ただ生きた。
 あるとき、私は過ちを犯した。彼は年下で、まだ学生。私には、選択肢があるはずもなく、我が子を堕ろした。
 いつの間にか、借金は四百万近くまで膨らんでおり、もはや首が回らなくなっていた。親に言うこともできず、誰かに助けを求めることもできず、目に飛び込んできたのが風俗情報誌だった。
 私は、キャバクラのようなキラキラしたところには行けず、新地の風俗嬢になった。なるしかなかった。毎日が絶望的だった。だが、それでも月に収入が百万を超えることもあり、私はずるずると堕落し続けていった。稼いでは湯水のように使い、酒を飲んでは吐いて、そして泣いた。
 ある日、裁判所から催促状が届いた。
「私、なにしてんねやろ……」
 家族が欲しい。その頃、それが私の夢になっていた。あたたかい家庭を作りたい。何でも言い合えるような、あたたかい家庭を。
 私は一念発起した。このままではいけない。頑張って借金をすべて返すことを決め、必死にお金を稼いで、ようやく風俗から足を洗った。三十手前だった。そうして、その頃出会った彼氏が焼鳥屋の店長だったこともあり、私は彼に一緒にお店を経営したいと言った。彼はそれを快諾してくれた。わたしは彼と結婚した。
 振り返れば、二十代は散々だった。しかし、私にも、ようやく家族ができる。それは長年の夢だったように思う。今度こそあたたかい家庭を作る。そう思っていた。
 彼はしばらくして、ついに独立した。私は希望と期待に胸を膨らませる。夢が叶う。心臓が高鳴った。だけど、ある日、彼が言った。
「家族経営はしないことにした」
 私の中で、なにかが切れた。私はそれから、バイト以外はずっと家に引きこもるようになった。家事もせず、なにをする訳でもなく、記憶がなくなるまでお酒を飲んで、喉が枯れるまで煙草を吸った。どうやら私は、なにも変わっていないようだった。母はいまでも外に男がいる。私は依存の対象を酒に移しただけで、飲んでは吐いて、泣いて、家族が欲しいという夢の叶え方も分からず、そうして、私は離婚した。
 それから、ある人と出会い、五年ぐらい自堕落な生活を共にした後、「今からでも遅くない」と別れ、一人で生きていくことを決意し、三十後半にして、正社員になった。
 現在、その人は小説家になって、家族と共に幸せに暮らしているそうだ。
 家族。私も家族が欲しい。だけど、今の彼は結婚に否定的だ。いったい、どうやったら家庭というものは作れるのだろうか。分からない。思えば、私は家族というものが何なのかを知らない。私はいったい、なんのために生きているのだろうか。本当に生まれてきてもよかったのだろうか。
 もう、子供を作るのには遅い。できない可能性が高い。きっと、これは罰なのだ。子を捨てた罰。私は、罪を償うために生きているのかもしれない。
 彼は、どうして私と一緒にいるのだろうか。結婚してくれるのかも分からない。私はときおり、彼に申し訳なく思うときがある。
「もし自分の子供が欲しくなって、私が邪魔になったら、別れてもいいからね」
 どうして私は、あのとき、子を堕ろしてしまったのだろうか。悔やんでも悔やみきれず、家族なんていらないと思っていた過去の私は、それでも、それはまぎれもなく私なのだ。幼い頃の私。私は、ただ、母に愛されたいだけなのだ。
 もし、万が一、あのとき――。私は、家族が欲しいのではなくて、ただ、愛情がほしいだけなのかもしれない。誰かを愛したいのだ。愛。私は母のような母にはなりたくない。私は、我が子に愛を伝えたいのだ。
「生まれてきてくれて、ありがとう」
 ふと、私の膝の上で寝転んでいた猫が、私の顔を見つめると、トトっと窓辺に歩いていった。私は、後を追うように立ち上がる。窓を開けると、夜の凛とした空気が濡れた頬をなでつける。猫は、鼻先で夜をつつくと、満足したのか、部屋に戻っていった。
 ベランダ。煙草に火をつける。吐き出す煙が白く、夜空に色を塗る。そのとき。
「あっ」
 一筋の流れ星――。
 人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ。
 私は火を消して、残りの煙草を箱ごと握りつぶすと、大きく深呼吸して、涙を拭った。部屋に戻ると、足元に猫がすり寄ってきたので、頭をやさしくなでる。猫はニャーと甘える。私はそのまま抱き上げた。スマホが鳴った。私はもう一度空を見て、カーテンを閉めると、我が子を強く抱きしめた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。

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あなたの人生を一冊の小説(本)にしませんか?

初めまして、小説家志望の有原悠二と申します。
元ライター。うつ病がきっかけで心理学の勉強をし、カウンセラーの資格を取得。小さいけれど小説の受賞歴あり。詩誌にて詩の掲載歴もあります。

ある日のことでした。
「私の話で小説って書ける?」と知り合いに聞かれました。
ちょうどその頃、月に一度ショートショート(原稿用紙五枚ぐらいの短い小説)を書いて投稿をしていたので、なんとはなしに話を聞いて執筆してみることにしました。
どうやら昔、いじめられていたそうです。
完成した小説を見せたとき、その方は目に涙を浮かべていました。
私はそのときに、人はみな波乱万丈な人生を送っている、そうして、その苦しみを背負っているんだと思い、自身の経験と、カウンセラーの資格を活かして「小説セラピー」を立ち上げることにしました。

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【どんなサービス?】

カウンセリングであなたの心の中にあるわだかまりやトラウマ、後悔している出来事や胸の中に隠し持っている気持ちをお聞きします。
その後、完全オリジナルの小説(原稿用紙5~10枚)を執筆し、一冊の本に綴ってお届けいたします。

また、悩みだけではなく、将来の不安や夢を叶えたい方にもおすすめです。
夢が叶った未来の自分をより具体的にイメージすることで背中を後押しします。

物語はクライアント様のご希望にそって執筆させていただきます。
内容はふとしたときに溢れてくる涙や日常の些細な幸せなどでも構いません。

「話下手だし……」
「自分の人生なんてたいしたことないから」
「自信がない……」

大丈夫です!
元ライターで取材経験があり、またカウンセラーの資格も持っている著者が丁寧にお話をうかがいますのでご安心ください。
あなたの人生は、あなたが思っている以上にドラマティックなのです。

ご自身を主人公にしてもいいですし、うかがったお話からイメージを広げて全くのフィクションにすることも可能です。

フィクションorノンフィクション、こんな雰囲気やジャンルにしてほしいなどの要望があればお気軽にご相談ください。
もちろん、すべてお任せでも大丈夫です。

※あくまでも小説です。取材記事とは異なりますのでご了承ください。
※カウンセリング同様、取材内容を他言することはございません。

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【料金】

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【メリットは?】

当時の感情を俯瞰で眺めることはなかなかできることではありません。
カウンセラーと対話する中で今まで気づかなかった自分の本当の気持ちや、過去に負った傷(トラウマ)や悩みに対する思い、考え方を見つめることができ、ご自身の体験をもとに書かれた小説を読むことで人生を客観的に捉えることができます。

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【過去のクライアント様の作品集】

実際にご注文をいただき執筆した作品を掲載しています。
作品はご注文者様の許可を得て掲載しています。
お手数をおかけしますが下記より読んでいただけると幸いです。

note→https://note.com/yuji_arihara/m/mbeb2f9267be2
アメブロ→https://ameblo.jp/arihara2/theme-10114038120.html


【お客さまの声!(一部抜粋)】

・自分の話がモチーフになっているとは思えないほど、ナチュラルにエッセンスを使ってもらって、展開も読めなくて凄く面白くて感動しました。自分を題材にした小説は初めてなので、素直に感動しています。(40代、男性)
・すごく感動して涙が止まりませんでした。お願いしてよかったです。(50代、女性)
・涙が止まりません。思いがけない展開だったけど、何故か、前回よりももっともっと、私の心の中から何かが溢れ出ました。私の友人たちにも紹介したいと思います。(リピートの方)
・小説セラピーの本が届いた。やべぇとしか言えない内容。勿論いい意味で。完全に私の物語だった。頑張ろってなった。泣くわこれ!(30代、女性)
・失敗だらけの人生だと思ってたけど、少しずつでも、成長して前に進んで来たんだなって、自分なりに頑張って生きてきたことが分かって本当に嬉しかったです。(40代、女性)


【こんな方におすすめ!】

・過去の辛かった出来事やトラウマと向き合いたい方
・波乱万丈な人生を本にして残したい方
・ご自身の体験を通して現在苦しんでいる人に思いを伝えたい方
・夢を叶えたい、夢を叶えた自分を見てみたい方
・大切な人(両親、祖父母、子供、孫、友人、恋人、夫婦)に向けて世界に一つだけの小説をプレゼントしたい方
・あのときこうすればよかった、こんな言葉をかけてほしかった、という気持ちを本の中で実現したい方
・もしあのときこうしていたら……、違う人生を歩んでいる自分を見てみたい方
・SNSに投稿したい、朗読用などの自分の作品が欲しい方
・自己紹介として、ポートフォリオ用など、個性的な自己紹介ツールが欲しい方

など、多岐に渡ってご使用いただけます。

長くなりましたが、少しでもあなたの心に響くように一文字一文字に気持ちを込めて執筆させていただきます。

ご不明な点があればお気軽にご質問、お問い合わせください。

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心よりお待ちしております。

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