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ゆべしの逆噴射小説大賞投稿作品

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逆噴射小説大賞に投稿したの。
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チャーチワード氏の花嫁蒐集

チャーチワード氏の花嫁蒐集

 チャーチワード氏が蒐集品に何より求めるのは珍奇さだ。
 ダマスカス鋼のバターナイフ、人皮装丁の魔術書、黒い睡蓮、始皇帝のサングラス、アボリジニ戦士の護衛等々。蒐集品の文化的価値、時にはその真贋すら氏にとっては二の次、珍奇さこそ最も心惹く要素だった。
 そんな氏が世にも珍しい花嫁を迎えたという報を聞き、ロンドンの蒐集家が集う会員制クラブの紳士達は色めきだった。
「氏は花嫁を選ぶため北米、ギリシア、

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悪魔パルマコスの悔恨

悪魔パルマコスの悔恨

 パルマコスの白い掌に赤い薔薇の花弁が落ちると、それは燃え上がり皮膚を黒く焦がした。
 彼は心臓と喉を焼きながらせり上がってくる熱にえずき激しく咳こんだ。火の粉と花弁が口から溢れ出で宙に舞い、体を触れる端から焼いていく。
 それは体のみならず存在を焼く火だった。
 遥か昔、荒野、まだ神であることが許された時代から在る己が不可逆に損なわれていく。彼は屈辱と怒りに牙を剥いて喘いだ。
 何もかもお前のせ

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女王殺しと沼地の怪奇

女王殺しと沼地の怪奇

「皆が貴女を何も出来ない小娘だと思っている、だから―」

 ソフィアは寝台に横たわる病身の母がその言葉の続きを発するのを待ったが、それは永遠に叶わなかった。動かない母の瞳にはまだソフィアの姿が映っていたが、もう何も見えてはいない。

 翌日、母の遺体は金糸の刺繍が施された白布に包まれ、マーシュ家所有の鬱蒼とした森の中にある沼地に沈められた。
 親族と弔問客が見守る中、深緑の水面は天鵞絨がたわむよう

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ジハード・フォー・リゲイン・ラブ

ジハード・フォー・リゲイン・ラブ

 ある日突然ジャネット(注1)のスピリチュアルシスターにしてソウルメイトのアスティがピンクのメッシュ入り金髪をブルネットに染め黒いマニュキアを落とし、ジャネットとお揃いだった神と秩序への反逆の象徴である逆十字架のピアスとチョーカーを外して登校してきた。服はいつもの漆黒のレザーコルセットとサテンのフレアスカート、膝まであるハイヒールブーツ、ではなく、清潔感あるノースリーブの白いシャツに紺色のクロップ

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貪婪の王はかつえる

貪婪の王はかつえる

 貪婪の王の話をしようか。

 俺がいきなりこんなこと言い出して、腫瘍で脳までイカれたと思うだろう、倅や?
 だがこいつはお前だけ、お前だから話すんだ。俺が女共に産ませた子供の中で、お前がいっとう俺に似てるからな。母親が良かったのかも知れねえ、名前は何だったっけ?
 そんな顔するな。自分がひとでなしだってことは嫌って程解ってる。お前が俺を嫌ってるのも知ってる。その上、酷い嵐なのにわざわざ俺の話を聞

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デス・オブ・オブライエン

デス・オブ・オブライエン

「その血のために誰も涙を流さない悪人の魂」

 闇夜の柳の木の下で、悪魔は言った。

「再び君が娘と会うには、そんな魂が必要だ」

 悪魔は、最初に会ったときは黒犬、その次は黒髪の女、そして今は痩せた男の姿でオブライエンの前にいる。

「本当にその...魂、があれば、ソフィアは蘇るんだな?」

 オブライエンは悪魔の目をじっと見た。姿は違えど、その燃えるような赤い瞳は常に同じだ。

「君が己の手で

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ハント・イズ・カミング

ハント・イズ・カミング

灰色の雲間から光がさし、雨に濡れた緑豊かな大地を照らしたかと思うと、光を追ように赤黒い触腕が蠢きながら降りてきた。

「さっき食ったツナサンド吐きそう」

電磁装甲の頭部ハッチを開き、数キロ先の光景を見て俺はぼやいた。

『やめろ汚い』

神経質な黒弦からの無線だ。

『あら、この光景より汚らわしいものって?』

イーディスは何かキメているのかやたらご機嫌に話す。

『お喋りを止め

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長いナイチンゲールの夜

長いナイチンゲールの夜

ナイチンゲールの鳴き声がした。

俺は女から身を離し飛び起きた。
「聞こえたか?」
「何が?」
「鳥の鳴き声!ナイチンゲールだ!!」
「何にも聞こえなかったわよ」
俺はベッドからまろび降りると鞄の中のナイチンゲールの剥製を震える手で取りだし、凝視した。そして大急ぎで服を着た。
「何...これからだって時に」
女が呻く。名前...アイラ?アイリーン?声をかけた時酔っていたのでよく覚えてな

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That Elf said "Marry me !!"

That Elf said "Marry me !!"

32歳の誕生日に、駅の改札口でエルフの待ち伏せにあい求婚された。

エルフが言うことには、自分はエルフの国の王族で、成人年齢の1000歳の誕生日になったら伴侶と見初めた相手に求婚しにいく習わしらしい。

エルフは端整な顔の美青年で、夜の海に融ける月の光のように美しい白金の長髪だった。

が、朝のミーティングに遅れそうな私はイライラしており、たちの悪いYouTuberか何かだろうと考え「

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まなこの魔女

まなこの魔女

 セヴァストポリの野戦病院の片隅で、砲弾の破片を腹に受けたアレクセイは死につつあった。彼が砲弾の音を遠くに聞き、汚らしい天井を眺めながら思い出していたのは、子供の頃に「まなこの魔女」の閨を訪れた秋の日のことだった。

 13歳のアレクセイは、森の中にあるという魔女の閨を求め彷徨っていた。その左目は包帯で覆われている。森は深く、木々に繁る葉は黄や赤に色づき燃えるようだ。見上げれば木漏れ日が白く光り滲

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人狼対抗西部戦線

人狼対抗西部戦線

 太陽が照りつける赤く乾いた荒野を鉄道レールが貫く。その傍らに馬に乗った数十人のガンマン達が集っていた。
「奴等が人狼と呼ばれている理由が解る奴はいるか?」 
 左目を黒い眼帯で覆った初老の男、シルバーハウンドは男達に向けそう言った。
「16世紀にスラブ地方で彼らが観測され始めた頃、最も頻繁にとった形態が人狼だからです。慣習的に今でも彼らを人狼と呼びます。」
 遠慮がちに答えたのは余りに場違いな雰

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10万光年愛人トーナメント

10万光年愛人トーナメント

 屈強な草色の上半身を持つ、αケンタウリ星系人のイボツヌァが繰り出した4本足の回足蹴りが須臾子の側頭部に炸裂した!
 須臾子の視界は大きく傾き、リング上に大の字に倒れた。
『ダウン!唯一の地球人がここで敗退か!?』
「1!2!3!…」
「須臾子立て!それでも俺を倒した女か!?」
 実況の耳障りな合成音声もレフェリーのカウントも観客席にいるゴリラ…ではなくティタノマキア星人のゴライアスが飛ばす檄も、

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